切削油, 油剤選定, 水溶性切削油, 不水溶性切削油, 種類, 選び方, 加工方法, 被削材 現場で役立つ!切削油の基礎知識と選び方の決定版
切削油の基礎知識

切削加工の現場で役立つ!切削油の基礎知識と選び方

切削油の基礎知識と選び方
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機械加工の現場において、切削油は単なる油以上の重要な役割を果たしています。適切な切削油の選定と管理は、加工精度、工具寿命、そして作業環境に直接影響を与えるため、現場担当者にとって必要不可欠な知識と言えるでしょう。

「切削油についてはこのブログさえ見ておけば大丈夫」をコンセプトにお届けする本記事では、切削油の基本的な定義から、種類、選び方のポイント、安全な取り扱い、そして現場でよくある疑問まで、長年の経験と知識に基づき、幅広く解説していきます。

1. 切削油の役割と機械加工における重要性

切削油は、金属などの被削材を機械で切削、研削する際に使用される油剤の総称です。その主な役割は多岐にわたり、機械加工の効率化と品質向上に大きく貢献しています。

切削油の基本的な定義と必要性

切削加工は、工具と被削材が直接接触し、摩擦や熱が発生する過酷な環境下で行われます。もし切削油がなければ、以下のような問題が発生し、安定した加工は困難となるでしょう。

  • 工具の早期摩耗と破損
    高温と摩擦により、工具の刃先がすぐに摩耗したり、欠けたりしてしまいます。
  • 加工精度の低下
    熱膨張や摩擦抵抗の増大により、寸法精度や面粗度が悪化します。
  • 被削材の発熱と変質
    過度な発熱は、被削材の材質変化や焼き付きを引き起こす可能性があります。
  • 切りくずの排出不良
    摩擦熱により切りくずが工具や被削材に溶着し、加工を妨げます。
  • 機械の故障
    摩擦の増大は、機械部品への負担を増やし、故障の原因となります。

切削油の主要機能を五つ紹介

切削油が果たす主要な機能を以下の五つの側面から解説いたします。

  1. 冷却 (Cooling)
    切削時に発生する熱を吸収し、工具や被削材の温度上昇を抑制します。これにより、熱膨張による寸法変化を防ぎ、工具の寿命を延ばします。冷却性に優れた水溶性切削油が一般的に用いられます。
  2. 潤滑 (Lubrication)
    工具と被削材の間の摩擦を低減し、切削抵抗を小さくします。これにより、工具の摩耗を抑え、より滑らかな加工面を得ることができます。不水溶性切削油は、高度な潤滑性能を発揮し、精密加工に貢献します。
  3. 切削性向上 (Machinability Improvement)
    潤滑作用に加え、被削材のせん断を助けたり、構成刃先の生成を抑制したりすることで、切削効率を高めます。様々な被削材や加工方法に対応した切削性向上剤が配合された油剤があります。
  4. 防錆 (Rust Prevention)
    加工中や加工後の被削材、そして機械部品の錆びや腐食を防ぎます。特に水溶性切削油には、高性能な防錆剤が配合されています。
  5. 洗浄 (Cleaning)
    切削によって発生した切りくずを洗い流し、加工点から排除します。これにより、切りくずによる加工不良や工具の損傷を防ぎます。水溶性切削油は、優れた洗浄力で加工面をクリーンに保ちます。

2. 切削油の種類と特性:水溶性 vs 不水溶性

切削油は、その主成分によって大きく「水溶性」と「不水溶性」の二つのカテゴリーに分類できます。それぞれ成分や特性、適した用途が異なるため、加工内容や目的によって最適な製品を選ぶことが重要です。

水溶性切削油

水に希釈して使用する水溶性切削油は、冷却性に優れているのが大きな特徴で、高速切削や連続切削など、発熱量の多い加工に適しています。さらに、引火の危険性が低く、作業環境の安全性向上にも貢献します。

水溶性切削油は、さらに以下の3つのタイプに分類できます。

  • エマルジョン (乳化型)
    基油(鉱物油や合成油)を界面活性剤によって微細な粒子として水中に分散させたものです。潤滑性、冷却性、防錆性のバランスに優れており、汎用性が高いのが特徴です。幅広い加工現場で利用されています。
  • ソリュブル (可溶性)
    基油を界面活性剤と添加剤によって水に溶解させたものです。エマルジョンよりもさらに冷却性に優れ、透明度が高いため加工状態が視認しやすいというメリットがあります。高精度な加工に対応できる製品もあります。
  • シンセティック (化学合成型)
    石油系基油を一切含まず、化学合成された化合物(ポリアルファオレフィン、エステルなど)を主成分とするものです。極圧性、清浄性、冷却性に非常に優れており、難削材の加工や高速・高精度な加工に適しています。泡立ちにくい、腐敗しにくいといった特性も持ち合わせています。

不水溶性切削油

原液のまま使用する不水溶性切削油は、潤滑性に非常に優れているのが特徴で、低速高荷重の加工や、高い面粗度が求められる精密加工に適しています。

不水溶性切削油の主成分は、高度に精製された鉱物油や、環境に配慮した合成油などです。これらに、長年のノウハウに基づき厳選された極圧添加剤、油性向上剤、酸化防止剤などが最適に配合されています。

切削油を選定する際の基本的な考え方

特性水溶性切削油不水溶性切削油
冷却性非常に高い(特にソリュブル、シンセティック)低い
潤滑性比較的低い(エマルジョンは中程度)非常に高い
切削性優れている(特にシンセティック)優れている
防錆性添加剤による比較的高い(油膜による)
洗浄性優れている劣る
引火性低い高い
作業環境比較的良好油煙、ミストが発生しやすい
コスト比較的低い(希釈するため)比較的高い
適用加工高速切削、連続切削、汎用加工低速高荷重加工、精密加工、難削材加工

切削油を選ぶ際には、上記を考慮し、以下の点を判断基準とすることが重要です。

  • 加工方法
    高速切削には冷却性の高い水溶性、低速高荷重加工には潤滑性の高い不水溶性。
  • 被削材の材質
    難削材には、極圧性能の高い切削油。
  • 求める加工精度
    高精度な仕上がりには、潤滑性や冷却性に優れた切削油。
  • コスト
    ランニングコストだけでなく、工具寿命や不良率も考慮。
  • 作業環境
    安全性や環境負荷も考慮。

サンワケミカル株式会社では、お客様の多様なニーズにお応えできるよう、幅広い種類の水溶性・不水溶性切削油を取り扱っております。 ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
サンワケミカル株式会社お問い合わせ:http://sanwachemical.co.jp/contact/

3. 現場担当者が知っておくべき基礎用語と安全な取り扱い

切削油を適切に管理し、安全に使用するためには、関連する基礎用語の理解と、安全な取り扱い方法の遵守が不可欠です。

切削油に関する専門用語

  • 粘度
    液体(この場合は切削油)の流動性の度合いを示す指標です。一般的に、粘度が高いほど油膜保持性が高く、潤滑性に優れます。
  • 引火点
    可燃性の液体が空気中で加熱された際に、引火する最低温度のことです。不水溶性切削油を取り扱う際には、引火点に注意が必要です。
  • pH
    水溶性切削油の液性を表す指標で、酸性、中性、アルカリ性を示します。適切なpH管理は、防錆性や皮膚への刺激を抑えるために重要です。
  • 極圧添加剤
    高温高圧下での潤滑性を向上させるための添加剤です。硫黄系、リン系、塩素系の化合物などが用いられます。
  • 油性向上剤
    金属表面への吸着性を高め、潤滑性を向上させるための添加剤です。脂肪酸やエステルなどが用いられます。
  • 安全データシート(SDS)
    化学物質の危険性や取り扱い方法、緊急時の対応などを記載した書類です。切削油の安全な取り扱いには、SDSの確認が必須です。

安全データシート(SDS)の重要性と見方

SDSには、製品の物理的・化学的性質、危険性・有害性情報、取り扱いおよび保管に関する情報、漏洩時の措置、応急措置、廃棄に関する情報などが記載されています。作業前に必ずSDSを確認し、製品の特性を理解した上で、適切な保護具を使用し、換気を十分に行うなど、安全対策を講じることが重要です。切削油メーカー各社は、製品のSDSを提供しています。

安全な取り扱いに関する注意点

  • 保護具の着用
    切削油の種類や作業内容に応じて、保護メガネ、保護手袋、保護マスク、作業着などを着用し、皮膚や目への接触、吸入を防ぎます。
  • 適切な換気
    作業場は常に換気をよく行い、油煙やミストの滞留を防ぎます。必要に応じて、局所排気装置などを設置します。ミスト抑制効果の高い切削油も存在します。
  • 皮膚接触の防止
    切削油が皮膚に付着した場合は、速やかに石鹸と水で洗い流します。かぶれなどの異常を感じた場合は、直ちに医師の診察を受けてください。
  • 火気厳禁
    不水溶性切削油は可燃性であるため、火気の近くでの使用や保管は絶対に避けてください。
  • 漏洩対策
    切削油が漏洩した場合は、速やかに適切な処理を行い、二次的な災害を防ぎます。
  • 定期的なメンテナンス
    切削油の状態を定期的にチェックし、適切な濃度管理や交換を行うことで、性能維持と安全確保に繋がります。

    サンワケミカル株式会社でも、切削油の品質管理に関するご相談を承っております。

4. 加工方法、被削材、目的に沿った切削油選定の基本

適切な切削油を選ぶためには、加工方法、被削材の材質、そして求める加工精度や効率といった目的を総合的に考慮する必要があります。

切削油選定の判断基準

切削油を選ぶ際には、以下の情報を整理し、総合的に判断することが重要です。ご不明な点があれば、専門の業者に相談することも有効です。

  1. 加工方法
    旋削、フライス削り、穴あけ、研削、ブローチ加工など、どのような加工を行うのか。
  2. 被削材の材質
    炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、鋳鉄、非鉄金属など、どのような材質を加工するのか。
  3. 切削条件
    切削速度、送り速度、切り込み量などの加工条件はどうか。
  4. 求める加工精度・面粗度
    どの程度の精度や面粗度が要求されるのか。
  5. 工具の材質
    ハイス鋼、超硬合金、セラミックなど、どのような材質の工具を使用するのか。
  6. 冷却・潤滑の必要性
    加工によって発熱量や摩擦の大きさが異なるため、どちらの性能を重視するか。
  7. コスト
    初期コストだけでなく、ランニングコストや工具寿命への影響も考慮する。
  8. 作業環境
    油煙、ミスト、臭気など、作業環境への影響も考慮する。

加工方法と切削油の相性

  • 旋削・フライス削り
    比較的汎用性の高いエマルジョンやソリュブルタイプが用いられます。高速加工の場合は、冷却性の高いシンセティックタイプも有効です。
  • 穴あけ
    深穴加工などでは、切りくず排出性や潤滑性に優れた油剤が求められます。
  • 研削
    微細な切りくずが発生するため、洗浄性や冷却性に優れたソリュブルタイプやシンセティックタイプが適しています。砥石への影響も考慮する必要があります。
  • ブローチ加工
    高い面粗度と潤滑性が求められるため、不水溶性切削油が適しています。

被削材の材質による最適な切削油の違い

  • 鉄鋼材料
    炭素鋼には汎用的なエマルジョン、合金鋼やステンレス鋼には潤滑性や極圧性に優れた油剤が推奨されます。
  • アルミニウム合金
    油剤によっては変色や腐食を引き起こす可能性があるため、アルミニウム合金専用の切削油や、pH管理が適切に行われた水溶性切削油を選定します。
    サンワケミカル株式会社にも、アルミニウム合金の加工に適した製品がございます。
  • 鋳鉄
    黒鉛が潤滑性を向上させるため、乾式加工や低濃度の水溶性切削油が用いられることもあります。
  • 非鉄金属
    材料の種類によって適切な油剤が異なるため、注意が必要です。

求める加工精度や効率に応じた選び方のポイント

高い加工精度が求められる場合は、工具と被削材の摩擦を低減し、熱膨張を抑えるために、潤滑性や冷却性に優れた切削油を選定します。また、加工効率を重視する場合は、切削抵抗を低減し、工具寿命を延ばす効果のある油剤を選びます。

サンワケミカル株式会社は、高精度加工や高効率加工に貢献する様々な切削油を開発・製造しています。

5. 切削油に関するよくある質問と回答(FAQ)

ここでは、現場担当者の方々からよく寄せられる切削油に関する疑問とその解決策をご紹介します。

Q1. 水溶性切削油の濃度管理はなぜ重要ですか?

A1. 適切な濃度を維持することは、切削油の性能を最大限に引き出し、安定した加工と機械の保護に不可欠です。濃度が低いと、潤滑性や防錆性が低下し、工具寿命の短縮や機械の腐食、加工不良の原因となります。一方、濃度が高すぎると、泡立ちや皮膚への刺激、残留物の増加などを引き起こす可能性があります。定期的な濃度測定と調整を行い、メーカーが推奨する適切な濃度範囲を維持してください。サンワケミカル株式会社では、濃度管理に役立つ情報も提供しています。

Q2. 切削油の交換時期はどのように判断すれば良いですか?

A2. 切削油の交換時期は、使用状況や油剤の種類によって異なりますが、一般的には以下の点を考慮して判断します。

  • 外観の変化
    油の変色、異物の混入、悪臭の発生などが見られる場合。
  • 性能の低下
    加工精度が悪くなったり、工具の摩耗が早くなったりした場合。
  • 定期的な管理
    メーカーが推奨する交換サイクルを守る。
  • pH値の変化(水溶性)
    pH値が推奨範囲から大きく逸脱した場合。

定期的な点検と管理を行い、必要に応じて早めの交換を検討することが重要です。

Q3. 環境に優しい切削油はありますか?

A3. はい、近年では環境負荷を低減するために、植物油を主成分としたバイオマス切削油や、PRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)の対象物質を含まない切削油などが開発されています。これらの環境配慮型切削油は、作業者の健康への影響も低減する可能性があります。導入を検討する際は、加工内容や機械への適合性を十分に確認してください。サンワケミカル株式会社でも、環境に配慮した製品の開発に取り組んでいます。

Q4. 切削油の混合使用は避けるべきですか?

A4. 原則として、異なる種類の切削油を混合して使用することは避けるべきです。異なる油剤同士が反応し、性能が低下したり、予期せぬ不具合を引き起こしたりする可能性があります。もし油種を変更する場合は、古い油を完全に抜き取り、機械やタンクを清掃してから新しい油を注入してください。

Q5. 切削油の保管方法で注意すべき点はありますか?

A5. 切削油は、直射日光や高温多湿を避け、清潔な場所で保管してください。不水溶性切削油は引火性があるため、火気の近くでの保管は厳禁です。容器は密閉し、異物や水分が混入しないように注意してください。SDSに従い、適切な保管方法を守ることが重要です。サンワケミカル株式会社の製品に関する保管方法については、SDSをご確認いただくか、弊社までお問い合わせください。

まとめ

本記事では、切削油の基本的な役割から種類、選び方のポイント、安全な取り扱い、そしてよくある質問まで、現場担当者が日々の業務で役立つ基礎知識を幅広く解説しました。「切削油についてはこのブログさえ見ておけば大丈夫」というコンセプトのもと、皆様の疑問解消と知識向上に貢献できたなら幸いです。

適切な切削油の選定と正しい管理は、加工品質の向上、工具寿命の延長、そして安全で快適な作業環境の実現に不可欠です。

今回の情報を参考に、ご自身の加工現場に最適な切削油を見つけ、より効率的で高品質な機械加工を実現していただければ幸いです。

サンワケミカル株式会社は、長年の経験と技術に基づき、多種多様な切削油剤を開発・製造しております。お客様の加工条件やニーズに合わせた最適な製品をご提案いたしますので、切削油に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

もし、この記事で紹介した対策を試しても問題が解決しない場合や、お使いの切削油に関するより詳細な情報、お客様の特定の加工に最適な油剤の選定についてご相談がありましたら、どうぞお気軽に私たちサンワケミカル株式会社までお問い合わせください。経験豊富な専門スタッフが、お客様の状況を詳しくお伺いし、最適なソリューションをご提案いたします。

サンワケミカル株式会社HP:http://sanwachemical.co.jp/
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今後も、金属加工の現場で役立つ情報を発信してまいりますので、サンワケミカル株式会社公式ブログにご期待ください。

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サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
副社長
金属加工油剤の営業一筋21年。常に「お客様の立場」を第一に考え、課題解決に誠実に取り組むことで、多くの企業様と長い信頼関係を築いてまいりました。「信頼の輪が大きな幸せを生む」という経営理念のもと、今後もお取引先様の発展と働く方々のお役に立てるよう努めてまいります。 趣味はサッカー。プレミアリーグを現地で観戦したい。
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