オイルミスト対策の教科書|オイルミストの「抑制」と「除去」の完全ガイド
現場の常識!オイルミスト・油煙問題をゼロにするステップ
マシニングセンタやCNC旋盤が稼働する機械加工の現場。生産に不可欠なその場所で、多くの担当者様が頭を悩ませている共通の課題があります。それが、機械から立ち上るオイルミストや油煙の問題です。「工場内が白く霞んで視界が悪い」「機械も床も油でベトベトになり、清掃が大変」「独特の臭いがこもり、気分が悪くなることがある」…。これらは、単なる不快感に留まらず、作業者の健康、生産効率、そして工場の安全に関わる深刻な問題です。
多くの現場では、対策として「ミストコレクター」の設置が一般的ですが、「コレクターを付けているのに、なぜか改善しきれない」「フィルター交換のコストと手間が馬鹿にならない」と感じている方も多いのではないでしょうか。実は、それは対策の順番と考え方が間違っているからかもしれません。
この記事は、オイルミスト・油煙問題に終止符を打つための「教科書」です。問題の正体を正しく理解することから始め、その対策における「根本治療」と「対症療法」という重要な概念を整理し、コストを抑えながら最大限の効果を発揮する、科学的根拠に基づいた具体的なステップを徹底的に解説いたします。
1. オイルミスト・油煙とは?対策を間違えないための見分け方

オイルミスト対策の第一歩は、まず敵の正体を正確に知ることから始まります。現場で「ミスト」と呼ばれているものは、実は発生原因が全く異なる「オイルミスト」と「油煙(ヒューム)」の二種類が混在していることが多く、それぞれ対策方法が異なるため、この見分けを間違えると効果のない対策に時間とコストを費やすことになります。
知っておくべきこと
オイルミストの正体
物理的な微細化(霧状) オイルミストは、切削油が高圧ノズルから噴射される際や、高速回転する工具やワークによって激しく攪拌・せん断される際に、物理的な力によって液体が微細な粒子(霧状)になり、空気中に飛散するものです。身近な例で言えば、スプレー缶から噴射される霧や、シャワーから出る細かい水滴と同じ原理です。
油煙(ヒューム)の正体
熱による蒸発・分解 一方、油煙(ヒューム)は、加工点で発生する切削熱によって切削油が局所的に高温(時には数百度以上)に加熱され、蒸発(気化)したり、熱で化学的に分解されたりして発生する、さらに微細な粒子(エアロゾル)です。身近な例では、熱したフライパンに油を垂らした時に立ち上る煙と同じ原理です。
なぜ見分けが重要か
見た目は似ていても、「物理的な力で発生するミスト」と「熱で発生する油煙」では、発生メカニズムが全く異なります。したがって、その対策も、「物理的な飛散を抑える」アプローチと、「熱の発生を抑える、あるいは熱に強い油剤を選ぶ」アプローチとでは、全く異なる戦略が必要になるのです。
現場の「困った」リスト
オイルミストや油煙が引き起こす現場の具体的な問題は、多岐にわたります。
- 視界不良による作業性の低下
- 機械・床・壁面の油汚れ
- 不快な臭気
- 作業者の健康への影響(手荒れ、呼吸器系への懸念)
- 火災リスクの増大
これらの「困った」を根本的に解決するためには、まず次の章で解説する対策の全体像を理解することが重要です。
まとめると、オイルミストと油煙は発生原因が異なるため、対策も区別して考える必要があります。視界不良や汚れ、健康への影響といった現場の多様な問題を解決するためには、まずこの基本的な知識を持つことが不可欠です。
2. オイルミスト対策:根本治療(抑制)と対症療法(除去)
と対症療法(除去)-1024x538.png)
全てのオイルミスト対策は、医療における治療方針と同様に、「対症療法(症状を抑える)」と「根本治療(原因を断つ)」という二つの考え方に分類できます。最も効果的かつ経済的な戦略は、発生してしまったミストを集める「対症療法」に頼る前に、まずミストをそもそも発生させない「根本治療」を徹底することです。
オイルミスト対策について議論する際、この「対症療法」と「根本治療」の概念を整理しておくことは、回り道をせずに最短ルートで問題を解決するために非常に重要です。
オイルミスト対策の対症療法(除去)
考え方
これは、加工によって空気中に飛散してしまったオイルミストや油煙を、ミストコレクター(集塵機)などの専用設備を用いて「捕集・除去」するアプローチです。
具体的な手段
ミストコレクターの設置がこれにあたります。
特徴
- 即効性
設置すれば、その瞬間から空気中のミストを吸い込み始めるため、効果が目に見えやすいです。 - 限界
あくまで「発生してしまった後」の対策であるため、ミストの発生量そのものが多すぎると、コレクターが吸いきれなかったり、フィルターがすぐに目詰まりしたりして、十分な効果を発揮しきれない場合があります。 - 継続的なコスト
設備の初期導入費用に加え、フィルター交換などの消耗品費や、清掃・メンテナンスにかかる人件費といったランニングコストが継続的に発生します。
オイルミスト対策の根本治療(抑制)
考え方
これは、オイルミストや油煙が「そもそも発生しにくい」状況を作り出すことで、問題の原因そのものを断つアプローチです。
具体的な手段
オイルミストの発生を抑制する性能を持つ切削油を選定・使用することが、このアプローチの核心です。
特徴
- 最も効果的
問題の発生源で対策を講じるため、オイルミスト問題全体を大幅に改善できます。 - 経済合理性
ミストコレクターの負荷を劇的に軽減し、メンテナンスコストや消耗品費を削減できます。また、オイルミストとして飛散する油剤の量が減るため、切削油の消費量そのものを削減できるという直接的なコストメリットもあります。 - サンワケミカルの得意領域
私たち切削油メーカーが、製品の化学的・物理的特性をコントロールすることで、お客様に最も大きな価値を提供できる領域です。
オイルミスト対策の3つのアプローチ
より専門的には、労働安全衛生の観点から、対策は以下の3段階で考えることが基本とされています。
1. 発生源対策(抑制)
これが「根本治療」にあたります。オイルミストが発生しにくい切削油の使用、適切な切削条件の設定、加工方法の改善などが含まれます。
2. 拡散防止対策
発生したオイルミストが作業者のもとへ届く前に、その飛散経路を遮断する対策です。工作機械のカバーを適切に密閉することなどがこれにあたります。
3. 除去対策
これが「対症療法」にあたります。ミストコレクターなどの局所排気装置や、工場全体の換気扇(全体換気装置)で、オイルミストを除去します。
最も優先すべきは、言うまでもなく「1. 発生源対策」です。
まとめると、ミストコレクターによる「除去(対症療法)」も重要な安全対策ですが、それだけに頼るのではなく、まず切削油の見直しによる「発生抑制(根本治療)」を徹底することが、最も賢明で経済的な問題解決への道筋なのです。
3. オイルミストの発生抑制が現場の「困った」をどう解決するか?

オイルミストの発生を根本から「抑制」することは、単に空気がきれいになる以上の、具体的で多岐にわたるメリットを現場にもたらします。それは、視界不良の解消による作業効率と安全性の向上、油汚れの劇的な減少による清掃負荷の軽減と安全な床面の維持、そして不快な臭いや健康リスクの低減といった、日々の「困った」を直接的に解決することに繋がります。
切削油の選定によってオイルミストの発生そのものを抑える「根本治療」が、実際に現場のどのような課題を解決するのか、具体的に見ていきましょう。
視界・作業性改善の要点
1. クリーンな視界の確保
オイルミストは、工作機械の窓や内部に付着して視界を妨げるだけでなく、空気中に浮遊する微粒子が照明の光を乱反射させることで、機械内部全体が白く霞んで見えにくくなります。オイルミストの発生を抑制することで、この霞が晴れ、加工中の工具やワークの状態がクリアに視認できるようになります。これにより、加工精度の確認が容易になり、トラブルの予兆も早期に発見しやすくなります。
2. 作業者の不快感解消と効率向上
オイルミストが充満した環境では、目を保護するためにゴーグルの着用が必須となりますが、ゴーグルは曇りやすく、視界が歪んだり、長時間の着用は不快感を伴ったりします。オイルミストの発生が大幅に抑制されれば、ゴーグルの着用が不要になる、あるいは着用頻度を減らすことが可能になり、作業者のストレスや不快感が解消され、結果として集中力の維持と作業効率の向上に繋がります。
汚れ・床の滑りの解決の要点
1. 機械・設備・製品の油汚れ削減
空気中に飛散したオイルミストは、時間をかけてゆっくりと下降し、工作機械本体、周辺の設備、壁、そして加工済みの製品など、工場内のあらゆるものに付着して油汚れの原因となります。オイルミストの発生を根本から断つことで、これらの付着油が劇的に減少し、清掃の頻度と労力を大幅に削減できます。
2. 床の滑りによる転倒リスクの低減
床に付着した油は、滑りによる転倒事故を引き起こす、極めて危険な要因です。オイルミストの発生を抑制することは、床が油で汚れるのを防ぎ、作業者の安全を確保する上で非常に重要な意味を持ちます。
臭気・健康被害対策の要点
1. 不快な臭気の抑制
切削油がオイルミストとして飛散すると、その臭いも同時に拡散します。特に、油剤が劣化していたり、硫黄系の添加剤が多く含まれていたりすると、その臭いはより不快なものになります。オイルミストの発生量を減らすことは、工場内にこもる臭いを直接的に低減し、より快適な作業環境を実現します。
2. 健康リスクの軽減
オイルミストを長期間吸入することによる呼吸器系への影響や、皮膚に付着することによる手荒れ・皮膚炎は、作業者の健康を脅かす深刻な問題です。オイルミストの発生を抑制することは、これらの健康リスクを根本から低減し、従業員が安心して働き続けられる環境づくりに貢献します。
まとめると、オイルミストの発生抑制は、単に「空気をきれいにする」という環境対策に留まりません。それは、日々の作業効率、清掃負荷、安全性、そして従業員の健康といった、現場が抱える多くの具体的な「困った」を直接的に解決する、極めて効果的な改善活動なのです。
4. オイルミスト抑制の科学:「スーパーミストカット」のメカニズム

オイルミストを抑制する科学的なアプローチの核心は、空気中に浮遊しやすい微細な油剤粒子を、物理的に「大きく・重く」変えることにあります。サンワケミカルの「スーパーミストカット」技術などに代表される特殊添加剤は、飛散した微細なオイルミスト粒子同士を瞬時に凝集させる(くっつける)ことで、空気中に漂うことができない重い液滴へと変化させ、オイルミストの発生を根本から抑制します。
では、切削油の工夫によって、なぜオイルミストの発生を根本から抑えることができるのでしょうか。その科学的なメカニズムを解説します。
スーパーミストカットの仕組みとは?
特殊添加剤によるミスト粒子の「凝集」
オイルミストは、そのほとんどが直径10μm(0.01mm)以下の、目に見えないほど微細な油剤の粒子です。これらの粒子は非常に軽いため、空気の流れに乗って長時間にわたり浮遊し続けます。 サンワケミカルの「スーパーミストカット」技術などに代表されるオイルミスト抑制型切削油には、特殊な高分子化合物などの添加剤が配合されています。この添加剤は、クーラントがノズルから噴射され、微細なオイルミスト粒子が生成された瞬間に、それらの粒子同士を磁石のように引き寄せ、くっつけ合わせる(凝集させる)働きをします。
スーパーミストカットの効果は?
大きく・重くなった粒子は、飛散できない
微細な粒子が凝集することで、それらは数倍から数十倍の大きさを持つ、一つの大きな液滴へと変化します。 液滴は、体積(重さ)が大きくなるほど、空気抵抗の影響を受けにくくなり、重力によって落下しやすくなります。身近な例で言えば、細かい霧雨はフワフワと漂いますが、大粒の雨はまっすぐに地面に落ちてくるのと同じです。 この原理により、「スーパーミストカット」技術が適用された切削油は、オイルミストになろうとした瞬間に、空気中に浮遊できないほど重い液滴に変化し、すぐに加工液溜まり(クーラントタンク)へと戻っていきます。
メリット
このメカニズムによるミスト抑制は、以下のような大きなメリットをもたらします。
- 発生源での抑制
オイルミストが空気中に拡散する前にその場で液化させるため、極めて効果的にオイルミストの発生を抑制できます。 - 油剤消費量の削減
飛散して失われる油剤の量が減るため、切削油の補充量を削減できます。 - 安全性
引火性の高い油煙とは異なり、オイルミストは液体の粒子であるため、この技術は油性・水溶性を問わず応用が可能です。
まとめると、最新のオイルミスト抑制技術は、魔法のようにオイルミストを消し去るのではなく、添加剤の物理化学的な作用によって、飛散しやすい「微細な霧」を、飛散できない「重い雫」に変えるという科学的なアプローチに基づいています。これにより、オイルミスト問題をその発生源で断つことが可能になるのです。
5. 油煙発生を断つ!油剤の引火点・潤滑性による熱抑制戦略

熱によって発生する「油煙」を抑制するための対策は、二つの熱管理戦略に基づきます。第一の、そして最も基本的な戦略は、そもそも蒸発しにくい、引火点の高いベースオイルを使用した切削油を選ぶことです。第二の戦略は、優れた潤滑性を持つ添加剤を活用して、加工点で発生する摩擦熱そのものを低減させ、油剤が蒸発する温度まで達しないようにコントロールすることです。
オイルミストと並ぶもう一つの厄介な問題が、熱によって発生する「油煙(ヒューム)」です。特に、油性切削油を用いた高負荷な加工や、高速加工で問題となります。
油煙対策の原則
高引火点タイプの製品への変更
油煙は、切削熱によって切削油が蒸発(気化)し、それが空気中で冷やされて微細な液滴(エアロゾル)になることで発生します。したがって、油煙を抑制するための最も直接的で効果的な方法は、そもそも蒸発しにくい油剤、すなわち引火点が高い切削油を選定することです。
- 引火点とは
油が蒸発して空気と混ざり、そこに火を近づけた時に燃え上がる最低の温度を指します。引火点が高いほど、蒸発しにくい(揮発しにくい)油であることを意味します。 - 選定のポイント
例えば、引火点が200℃の油剤と250℃の油剤では、後者の方が明らかに油煙の発生は少なくなります。加工条件(特に加工点の温度)を考慮し、十分な安全マージンを持つ、できるだけ引火点の高いベースオイル(例えば、高度に精製された鉱物油や、化学的に安定した合成油など)を使用した製品に変更することが、油煙対策の基本となります。
添加剤の役割
潤滑性向上による加工熱の抑制
油煙の発生原因である「熱」そのものを低減させるというアプローチも、極めて有効な対策です。切削加工で発生する熱の多くは、工具とワーク、工具と切りくずの間で生じる「摩擦熱」です。
- 極圧剤・耐摩耗剤・油性剤の活用
硫黄系やリン系などの極圧(EP)添加剤や、耐摩耗(AW)剤、油性向上剤といった潤滑性能を高める添加剤を効果的に使用することで、加工中の摩擦を大幅に低減できます。摩擦が減れば、加工点の温度上昇も抑制され、結果として切削油が蒸発・分解する温度まで達しにくくなり、油煙の発生を抑えることができます。
コストの考慮
高性能油剤のデメリット
一般的に、引火点が高いベースオイル(高度精製油や合成油)や、高性能な特殊添加剤を使用した切削油は、汎用的な製品に比べて価格が高くなる傾向があります。
トータルコストでの判断
しかし、油煙の発生を抑制することによる作業環境の改善、ミストコレクターの負荷軽減(メンテナンスコスト削減)、そして潤滑性向上による工具寿命の延長や加工品質の向上といった、多くのメリットを総合的に考慮すると、初期の油剤コスト増を上回るトータルコストでの削減が期待できるケースも少なくありません。
まとめると、油煙の抑制は、熱との戦いです。蒸発しにくい「高引火点」の油剤を選ぶという守りの対策と、摩擦熱を減らす「高潤滑性」の油剤を選ぶという攻めの対策を組み合わせることが、クリーンで安全な作業環境を実現するための鍵となります。
6. ミストコレクター(除去設備)の役割と経済性のリアル
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ミストコレクターは、発生してしまったオイルミストを捕集するための重要な安全設備ですが、これはあくまで「対症療法」であり、その能力には限界があります。ミストの発生量が多い過酷な条件下では、フィルターの目詰まりが頻発し、メンテナンスコストの増大や捕集能力の低下を招き、結果として経済的な負担となり、かつ作業環境を十分に保護しきれないという厳しい現実に直面することが少なくありません。
多くの工場でオイルミスト対策として導入されているミストコレクター。その役割と、運用における経済的な実態について解説します。
役割と相場
発生したミスト・油煙を捕集する「対症療法」の設備
ミストコレクターは、工作機械の加工エリアから、オイルミストや油煙を含んだ空気をファンで強制的に吸引し、内部のフィルターや電極で汚染物質を捕集して、浄化された空気を排出する装置です。これは、拡散してしまったオイルミストを作業者が吸い込む前に除去するための、労働安全衛生上、極めて重要な「対症療法」の設備です。
市場と価格
市場には、赤松電機製作所の「オニカゼ」シリーズをはじめ、様々なメーカーから多様な機種が販売されています。捕集方式(フィルター式、電気集塵式、遠心分離式など)や風量によって価格は異なりますが、一般的な工作機械1台に取り付けるタイプで、おおよそ50万円前後が一つの目安となります。
コレクターの限界
メンテナンスが間に合わず吸いきれない現実
ミストコレクターの性能は、その内部にあるフィルターや電極の状態に完全に依存します。
- フィルター式の限界
不織布などで作られたフィルターでオイルミストを物理的に濾し取るタイプです。オイルミストの発生量が多いと、フィルターは油で急速に目詰まりを起こし、吸引風量が著しく低下します。また、目詰まりしたフィルターを放置すると、捕集した油が滴り落ちたり、最悪の場合はモーターの過負荷に繋がったりします。 - 電気集塵(電極)式の限界
電極に高電圧をかけてミストを帯電させ、集塵板に引き寄せて捕集するタイプです。こちらも、電極や集塵板に油やスラッジが付着・堆積すると、放電が不安定になったり、絶縁不良を起こしたりして、捕集効率が著しく低下します。定期的な電極の洗浄が不可欠です。
現実の加工現場では、特に油性切削油を用いた高負荷な加工や、24時間連続運転などでオイルミスト発生量が多い場合、これらのフィルター交換や電極洗浄といったメンテナンスが追いつかず、コレクターが本来の性能を発揮できずに、結局ミストが工場内に漏れ出しているケースが散見されます。
継続的に発生するコスト要因
初期導入費に加えて、ランニングコストが発生
ミストコレクターのコストは、購入時の初期導入費だけではありません。
- 消耗品費
フィルター式のフィルターエレメントは定期的な交換が必要な消耗品です。その価格は、1個あたり1万円程度から、高性能なものになると数万円に及ぶこともあり、交換頻度が高ければ、この費用は大きな負担となります。 - メンテナンス費用
フィルター交換や電極洗浄にかかる作業者の人件費や、専門業者にメンテナンスを委託する場合はその費用も発生します。 - 電気代
ファンや高圧電源を稼働させるための電気代も、24時間稼働する工場では無視できないコストです。
まとめると、ミストコレクターは重要な安全装置である一方、それだけに頼った対策は、性能の限界と継続的なランニングコストという二つの大きな課題を抱えています。この課題を解決する鍵が、次の「ハイブリッド対策」です。
7. コスト削減とコレクター延命:ハイブリッド対策の経済効果

最も経済的で合理的なオイルミスト対策は、「ハイブリッド対策」です。これは、まずミスト抑制型切削油による「根本治療(発生抑制)」を徹底し、オイルミストの発生量そのものを大幅に削減した上で、バックアップとしてミストコレクターによる「対症療法(除去)」を組み合わせる考え方です。このアプローチにより、ミストコレクターの負荷が劇的に軽減され、メンテナンスコストと油剤消費量の両方を大幅に削減することが可能になります。
「根本治療」と「対症療法」は、どちらか一方を選ぶものではなく、賢く組み合わせることで、その効果を最大化し、かつ経済的なメリットを生み出すことができます。
メンテコストの削減
根本治療がコレクターの負荷を劇的に下げる
まず、オイルミストの発生を抑制する性能を持つ切削油(「スーパーミストカット」技術などを採用した製品)に変更することで、ミストコレクターが吸引するミストの絶対量を大幅に減らすことができます。
- フィルター寿命の延長
コレクターに到達するミストの量が減れば、フィルターが目詰まりするまでの時間が格段に長くなります。例えば、これまで1ヶ月に1回交換していたフィルターが、3ヶ月、あるいは半年もつようになれば、年間のフィルター購入費用は1/3から1/6に削減されます。 - メンテナンス工数の削減
フィルター交換や、電気集塵式の電極洗浄の頻度が減ることで、その作業にかかっていた貴重な時間と人件費を、他のより生産的な業務に振り向けることができます。
油剤コストの削減
ミストによる油剤の「持ち出し(飛散)」を防ぐ
オイルミストとして空気中に飛散した切削油は、最終的にはコレクターに捕集されたり、床や壁に付着したりして、クーラントタンクの外へ失われていきます。これは、目に見えない形での切削油の継続的な損失(持ち出し)を意味します。
- 油剤補充量の削減
オイルミストの発生を抑制することは、この飛散による損失を直接的に減らすことに繋がります。その結果、切削油の補充頻度や補充量が減少し、年間の油剤購入コストの削減に直接貢献します。 - 事例
あるお客様の工場では、オイルミスト抑制型切削油に変更したことで、ミストコレクターのメンテナンス頻度が1/4に削減されただけでなく、切削油の補充量が年間で約20%削減されたという事例もあります。
ハイブリッド対策がもたらす相乗効果
このように、ミスト抑制型切削油による「根本治療」と、ミストコレクターによる「対症療法」を組み合わせる「ハイブリッド対策」は、
- 作業環境の最大化
発生を抑え、漏れた分も捕集するため、最もクリーンな作業環境を実現できます。 - トータルコストの最小化
油剤コストとメンテナンスコストの両方を削減できます。 - 安全性の向上
視界改善、床の滑り防止、火災リスク低減といった安全面での効果も最大化されます。
まとめると、ハイブリッド対策は、切削油と設備の両方の観点からアプローチする、最も賢明で効果的なミスト対策です。まず切削油を見直してミストの発生源を断ち、ミストコレクターを「最後の砦」として効率よく運用することが、経済的にも環境的にも最良の選択と言えるでしょう。
まとめ
本記事では、多くの機械加工現場が抱えるオイルミスト・油煙問題について、その発生メカニズムの正しい理解から始まり、対策の基本的な考え方である「根本治療(発生抑制)」と「対症療法(除去)」、そして具体的な解決策に至るまで、教科書として体系的に解説してまいりました。
重要なポイントは、ミストコレクターの設置といった「対症療法」だけに頼るのではなく、まず切削油の選定や管理を見直し、オイルミストや油煙を「そもそも発生させない」という「根本治療」に注力することです。
- オイルミスト
特殊添加剤によってミスト粒子を大きく・重くするミスト抑制型切削油を活用する。 - 油煙
高引火点のベースオイルと、摩擦熱を低減する高潤滑性添加剤を組み合わせた油剤を選定する。
これらの「発生抑制」策を徹底することで、視界不良、油汚れ、悪臭、健康リスクといった現場の具体的な「困った」を根本から解決し、作業環境を劇的に改善することができます。 その上で、バックアップとしてミストコレクターを運用する**「ハイブリッド対策」**こそが、コレクターのメンテナンス負荷とランニングコストを大幅に削減し、かつ油剤の飛散ロスも抑える、最も経済的で合理的なアプローチです。
切削油の選定による「発生抑制(根本治療)」は、コスト、健康、作業性、メンテナンスといった、オイルミストに関わるすべての課題解決への最短ルートです。高性能なコレクターという「対症療法」も安全上重要ですが、まずサンワケミカルの高性能な切削油で、問題の発生源を断つことから始めてみてはいかがでしょうか。お客様の状況に合わせた最適な「根本治療」をご提案させていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
サンワケミカル株式会社は、長年の経験と技術に基づき、多種多様な切削油剤を開発・製造しております。お客様の加工条件やニーズに合わせた最適な製品をご提案いたしますので、切削油に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
もし、この記事で紹介した対策を試しても問題が解決しない場合や、お使いの切削油に関するより詳細な情報、お客様の特定の加工に最適な油剤の選定についてご相談がありましたら、どうぞお気軽に私たちサンワケミカル株式会社までお問い合わせください。経験豊富な専門スタッフが、お客様の状況を詳しくお伺いし、最適なソリューションをご提案いたします。
サンワケミカル株式会社HP:http://sanwachemical.co.jp/
サンワケミカル株式会社お問い合わせ:http://sanwachemical.co.jp/contact/
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