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【水溶性切削油】水溶性切削油の温度管理|加工精度を高める具体的な方法とコツ

水溶性切削油の温度管理|加工精度を高める具体的な方法とコツ
サイト管理者

機械加工の現場において、水溶性切削油は潤滑、冷却、防錆、洗浄といった多様な役割を担い、加工品質や生産性に大きな影響を与えます。その性能を最大限に引き出し、安定した加工を実現するために極めて重要なのが「濃度管理」です。「切削油の濃度って、どうしてそんなに大事なの?」「正しい測り方がよく分からない」「うちの加工に合った適正な濃度は?」…今回は、そんな現場担当者様の疑問にお答えすべく、水溶性切削油の濃度管理の基本を徹底解説します。

正しい濃度管理は、単に油剤を長持ちさせるだけでなく、加工精度の向上、工具寿命の延長、そしてコスト削減にも直結します。この記事を通じて、濃度管理の重要性をご理解いただき、日々の業務改善にお役立ていただければ幸いです。

1. なぜ水溶性切削油の濃度管理が重要なのか?加工への影響は?

なぜ水溶性切削油の濃度管理が重要なのか?加工への影響は?
なぜ水溶性切削油の濃度管理が重要なのか?加工への影響は?

水溶性切削油は、原液を水で希釈して使用しますが、この「濃度」が加工に与える影響は非常に大きいものがあります。濃度が適正範囲から外れると、様々な問題を引き起こす原因となります。

切削油の濃度が低すぎる場合に起こる問題点

希釈しすぎたり、水分が過剰に混入したりして濃度が推奨値よりも低くなると、以下のような不具合が発生しやすくなります。

  • 潤滑性能の低下
    油性剤や界面活性剤などの潤滑成分が不足し、工具とワーク、切りくず間の摩擦が増大します。これにより、
    • 工具摩耗の促進
      工具の逃げ面摩耗やクレータ摩耗が早く進行し、工具寿命が短くなります。
    • 面粗度の悪化
      加工面にむしれや傷が発生しやすくなります。
    • 構成刃先の生成
      工具刃先にワーク材が溶着しやすくなり、寸法精度や面粗度に悪影響を与えます。
  • 冷却性能の低下(※過度に低い場合)
    濃度が極端に低い場合、水の比率が高いため一見冷却性が高いように思えますが、適切な潤滑がないと摩擦熱が増大し、結果的に冷却が追いつかなくなることがあります。また、沸点が下がり蒸発しやすくなることも考えられます。
  • 防錆力の低下
    防錆剤の濃度が不足し、ワークや工作機械のテーブル、治具などが錆びやすくなります。特に梅雨時期や湿度の高い環境では顕著です。
  • 耐腐敗性の低下: 切削油に含まれる防腐剤・殺菌剤の濃度も低下するため、バクテリアやカビが繁殖しやすくなります。これにより、
    • 悪臭の発生
      ドブのような不快な臭いが発生し、作業環境が悪化します。
    • pHの低下
      バクテリアの代謝物により液のpHが下がり、さらに防錆力が低下します。
    • 油剤の早期劣化
      切削油成分が分解され、性能が低下し、交換時期が早まります。
  • 洗浄力の低下
    切りくずや微細な粒子を洗い流す力が弱まり、切りくず排出性が悪化したり、加工面に切りくずが噛みこんだりする原因となります。

切削油の濃度が高すぎる場合に起こる問題点

逆に、水分が蒸発したり、補充時に原液を入れすぎたりして濃度が推奨値よりも高くなると、以下のような問題が発生しやすくなります。

  • 泡立ちの発生・増加
    界面活性剤の濃度が高くなり、液が泡立ちやすくなります。泡は、
    • 冷却・潤滑効果の阻害
      加工点への油剤供給を妨げます。
    • タンクからの溢れ
      作業環境を汚染します。
    • ポンプのキャビテーション
      ポンプの故障原因となることがあります。
  • ベタつきの増加
    機械周りやワーク表面がベタつきやすくなり、汚れが付着しやすくなります。加工後の洗浄工程にも影響が出る場合があります。
  • 冷却性能の低下
    油分が多くなると、水の持つ高い比熱・熱伝導性が活かされにくくなり、冷却性能が低下する傾向があります。特に高速加工では問題となることがあります。
  • コストの増加
    必要以上に原液を使用することになり、切削油の購入コストが増加します。
  • 皮膚への刺激
    濃度が高いと、アルカリ度が高くなったり、界面活性剤の影響が強くなったりして、作業者の手荒れなどの皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。
  • フィルターの目詰まり
    油剤成分が析出しやすくなり、フィルターの早期目詰まりの原因となることがあります。

適切な濃度がもたらすメリット

このように、濃度は低すぎても高すぎても様々な問題を引き起こします。メーカーが推奨する適正な濃度範囲を維持することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 加工精度の安定化
    潤滑性と冷却性のバランスが最適化され、寸法精度や面粗度が安定します。
  • 工具寿命の延長
    適切な潤滑により、工具摩耗を抑制し、工具交換頻度とコストを削減できます。
  • 機械・ワークの保護
    十分な防錆効果により、錆の発生を防ぎ、機械や製品の品質を維持します。
  • 切削油の長寿命化
    耐腐敗性が維持され、悪臭や早期劣化を防ぎ、交換サイクルを延ばすことができます。
  • コストの最適化
    無駄な原液消費を抑え、トラブル対応コストも削減できます。
  • 作業環境の改善
    悪臭やベタつき、泡立ちなどを抑制し、安全で快適な作業環境を維持できます。

つまり、適切な濃度管理は、高品質な加工を効率的かつ低コストで行うための基本中の基本と言えるのです。

2. 代表的な濃度測定器の種類と使い方(屈折計、濃度計)

代表的な濃度測定器の種類と使い方(屈折計、濃度計)
代表的な濃度測定器の種類と使い方(屈折計、濃度計)

水溶性切削油の濃度を管理するためには、濃度を測定する機器が必要です。現場で最も一般的に使われているのは「屈折計」ですが、他にも様々な原理の濃度計が存在します。

屈折計(光学式屈折計、糖度計、Brix計)

現場で「濃度計」と言えば、多くの場合この屈折計を指します。手軽に扱えるため広く普及しています。

  • 原理
    液体中に光を通すと、その液体の濃度によって光の進む角度(屈折率)が変わる性質を利用しています。屈折計は、この屈折率を測定し、それを濃度(多くの場合、ショ糖水溶液の濃度であるBrix%)として表示します。
  • 使い方(アナログ式ハンディタイプの場合)
    • 準備
      測定前に、プリズム面(光を通すガラス面)と採光板(蓋)を、きれいな水を含ませた柔らかい布やティッシュで清掃し、その後乾いた布で水分を拭き取ります。
    • ゼロ点校正
      プリズム面に蒸留水または水道水(なるべく純水に近いものが望ましい)を1~2滴垂らし、採光板を閉じます。接眼レンズを覗き、明るい方向に向けて、視野内の明暗の境界線(視野境界線)が0%の目盛り線と一致するか確認します。ずれている場合は、調整ネジ(付いている機種の場合)で合わせます。校正は測定前に行うのが理想です。
    • サンプル測定
      プリズム面に測定したい切削油を1~2滴垂らし(気泡が入らないように注意)、採光板を閉じます。
    • 読み取り
      接眼レンズを覗き、視野境界線の位置が示す目盛り(Brix%)を読み取ります。
    • 換算
      読み取ったBrix値に、使用している切削油固有の「換算係数(ファクター)」を掛けて、実際の濃度(%)を算出します。(例:Brix値 5.0%、換算係数 1.1 の場合、実際の濃度は 5.0 × 1.1 = 5.5%) 換算係数は製品ごとに異なるため、必ずメーカー(サンワケミカル株式会社など)に確認するか、製品資料を参照してください。
    • 清掃
      測定後は、速やかにプリズム面と採光板を清掃し、乾燥させて保管します。
  • デシタル式屈折計
    サンプルを垂らしてボタンを押すだけで測定値が表示されるタイプもあります。読み取り誤差が少なく、温度補正機能が内蔵されているものが多いです。
  • 校正の重要性
    正確な測定のためには、定期的なゼロ点校正が不可欠です。
  • 注意点
    • 温度
      液温によって屈折率が変わるため、測定時の温度が大きく異なると誤差が生じます。自動温度補正(ATC)機能付きの屈折計を使用するか、測定する液温を一定に保つことが望ましいです。
    • 汚れ・異物
      プリズム面の汚れや、切削油中の混入油、微細な切りくずなどは測定値に影響を与えます。測定前の清掃と、サンプル採取時の注意(できるだけ上澄みを取るなど)が必要です。
    • 換算係数
      Brix値はあくまで目安であり、必ず換算係数を用いて実際の濃度を確認することが重要です。

その他の濃度計

屈折計以外にも、以下のような原理を利用した濃度計があります。インライン(配管途中)での連続測定や自動制御を目的として使用されることが多いです。

  • 電気伝導率式濃度計
    液体の電気の通りやすさ(電気伝導率)が濃度によって変化することを利用します。イオン性の成分濃度に影響されやすいです。
  • 超音波式濃度計
    液体中を伝わる超音波の速度が濃度によって変化することを利用します。異物の影響を受けにくい場合があります。
  • 密度式濃度計
    液体の密度が濃度によって変化することを利用します。温度の影響を受けやすいです。

測定器のメリット・デメリットと選び方

測定器の種類メリットデメリット主な用途・選び方
屈折計(ハンディ)・安価
・手軽で持ち運び可能
・操作が比較的簡単
・汚れ、異物の影響を受けやすい
・換算係数が必要
・連続測定不可
・読み取りに個人差
・現場での日常的な濃度チェック
・スポット測定
・コストを抑えたい場合
屈折計(デジタル)・読み取り誤差少ない
・温度補正機能付きが多い
・アナログより高価
・汚れ、異物の影響は同様
・換算係数は必要
・より正確なスポット測定
・読み取り誤差を減らしたい場合
その他の濃度計(設置型など)・連続測定、自動制御可能
・異物に強いタイプも
・高精度な測定が可能
・高価
・設置、校正が複雑な場合がある
・測定原理による向き不向きがある
・集中クーラントシステム
・厳密な濃度管理が必要な工程
・自動化、省人化目的

現場での日常管理には、まずはハンディタイプの屈折計(できれば温度補正機能付きのデジタル式)を正しく使うことが基本となります。より高度な管理や自動化を目指す場合は、他の方式の濃度計の導入を検討します。

3. 切削油の種類別 適正濃度範囲と注意点

切削油の種類別 適正濃度範囲と注意点
切削油の種類別 適正濃度範囲と注意点

水溶性切削油には、その成分や外観によっていくつかの種類があり、それぞれ推奨される濃度範囲が異なります。

水溶性切削油の種類と一般的な適正濃度範囲(目安)

JIS規格の分類に基づくと、水溶性切削油は大きく3つに分けられます。

  1. エマルジョン(JIS A1種, W1種)
    • 特徴
      鉱物油を主成分とし、乳化剤(界面活性剤)によって水に白濁した状態(牛乳のような見た目)で分散させたタイプ。潤滑性に優れる。
    • 一般的な濃度範囲(目安)5~10%
      重切削や難削材加工では、より高濃度で使用することもあります。
  2. ソリュブル(JIS A2種, W2種)
    • 特徴
      鉱物油の含有量がエマルジョンより少なく、界面活性剤の働きで水に半透明~透明な状態で溶解または微細分散させたタイプ。潤滑性と冷却性のバランスが良い。
    • 一般的な濃度範囲(目安)3~7%
  3. ケミカルソリューション(シンセティック)(JIS A3種, W3種)
    • 特徴
      鉱物油を含まず、水溶性の潤滑剤、防錆剤、界面活性剤などを配合し、水に透明な状態で溶解させたタイプ。冷却性、洗浄性、耐腐敗性に優れる。
    • 一般的な濃度範囲(目安)2~5%

※注意
上記の濃度範囲はあくまで一般的な目安です。実際に使用する際は、必ずその製品のメーカー(サンワケミカル株式会社など)が推奨する濃度範囲を確認し、それを基準に管理してください。 同じ種類(例:エマルジョン)でも、製品のグレードや配合成分、想定される加工内容によって最適な濃度は異なります。

メーカー推奨値の重要性

切削油メーカーは、製品開発段階で様々な試験を行い、その油剤が最も性能を発揮し、かつ安定して使用できる最適な濃度範囲を設定しています。この推奨範囲を外れて使用すると、前述したようなトラブルが発生しやすくなるだけでなく、メーカーが保証する性能が得られない可能性があります。

また、加工内容(例:アルミニウムの高速加工、ステンレスの低速重切削など)によって、推奨範囲の中でも低めが良いか、高めが良いかが変わる場合もあります。不明な点や、特定の加工に合わせた濃度調整については、遠慮なくメーカーに相談しましょう。

濃度管理におけるその他の注意点

  • 測定時の温度
    前述の通り、温度は測定値に影響します。特に冬場と夏場では液温が大きく異なるため、温度補正機能がない屈折計を使用する場合は注意が必要です。可能であれば、液温が安定している時間帯(例:始業前)に測定する、サンプルを採取して室温に馴染ませてから測定する、などの工夫をしましょう。
  • 異物の影響
    タンク内に浮上油(摺動面油など)や微細な切りくずが多く混入していると、屈折計の視野境界線がぼやけたり、測定値が不正確になったりすることがあります。
    • サンプルを採取する際は、できるだけ液面の油膜を避け、タンクの中間層から採取するようにします。
    • 可能であれば、サンプルを静置して上澄みを測定するか、フィルターで濾過してから測定すると、より正確な値が得られる場合があります。
    • 汚れがひどく、屈折計での測定が困難な場合は、メーカーに分析を依頼することも有効です。
  • 希釈水の水質
    希釈に使用する水の硬度(カルシウムやマグネシウムの含有量)が高いと、切削油中の成分と反応して不溶性の金属石鹸を生成することがあります。これが油剤の白濁や分離、フィルター詰まり、さらには濃度測定値への影響(屈折率の変化)を引き起こす可能性があります。可能であれば、硬度の低い水(イオン交換水、純水、軟水器を通した水など)を使用することが望ましいです。使用する水の水質について不安がある場合は、メーカーに相談することをお勧めします。

4. 切削油の濃度が変動する要因と対策

切削油の濃度が変動する要因と対策
切削油の濃度が変動する要因と対策

一度適正な濃度に調整しても、切削油を使用している間に濃度は様々な要因で変動します。主な変動要因とその対策を理解しておくことが重要です。

濃度が変動する主な要因

  • 水分蒸発(→濃度上昇)
    • 加工熱やポンプの発熱、周囲温度の上昇などにより、クーラント中の水分だけが蒸発し、結果的に油剤成分が濃縮されて濃度が上昇します。特に夏場や、液温が上がりやすい加工で顕著になります。
  • クーラント液全体の持ち出し(→液量減少、濃度変化は少ない)
    • 加工されたワークや切りくずに付着して、クーラント液がそのまま機械外に持ち出されます。この場合、濃度自体は大きく変わりませんが、タンク内の液量が減少します。
  • 水の混入(→濃度低下)
    • 機械洗浄時の水の混入、雨水の浸入、冷却水配管からの漏水など、外部から水が混入すると濃度が低下します。
  • 新規液の補充(→濃度上昇または低下)
    • 液量が減った際に補充を行いますが、補充する液(水、原液、希釈液)の種類や量が不適切だと、全体の濃度が意図せず変動します。例えば、水分蒸発で濃度が上がっているところに濃い希釈液を補充すると、さらに濃度が高くなってしまいます。
  • 成分の選択的な消費・劣化
    • 特定の成分(例:防錆剤、界面活性剤)が加工やバクテリアの影響で選択的に消費・劣化し、濃度測定値(特に屈折計)と実際の性能が乖離することが稀にあります。

濃度低下への対策

濃度低下の主な原因は「水の混入」と「不適切な補充」です。

  1. 定期的な濃度チェック
    最低でも週に1回、理想的には毎日始業前に濃度を測定し、低下傾向がないかを確認します。液量が大きく減った場合も必ず測定しましょう。
  2. 正確な補充
    濃度が低下している場合は、不足している油剤成分を補う必要があります。
    • 補充液の準備
      メーカー推奨濃度の希釈液を別途用意しておき、それを補充するのが基本です。状況に応じて、原液を少量ずつ補充して調整することも可能です。
    • 補充量の計算
      現在のタンク液量と濃度、目標濃度から、補充すべき原液量または希釈液量を計算します。(計算方法が不明な場合はメーカーに確認しましょう)
    • 補充方法
      補充液は、攪拌しながら少しずつ加えます。一度に大量に入れると、局所的に高濃度または低濃度になり、分離などの問題を起こすことがあります。補充後、しばらく循環させてから再度濃度を測定し、目標範囲内に入っているか確認します。
  3. 水の混入防止
    機械洗浄時にクーラントタンクに水が入らないように養生する、雨水が入らないようにカバーをする、漏水箇所がないか点検するなど、外部からの水の侵入を防ぎます。
  4. 自動希釈装置の活用
    設定した濃度で自動的に希釈液を作成・供給する装置を導入すると、補充時のミスを防ぎ、濃度管理の手間を大幅に削減できます。

濃度上昇への対策

濃度上昇の主な原因は「水分蒸発」です。

  1. 定期的な濃度チェック
    濃度低下と同様に、定期的な測定で上昇傾向を把握します。特に夏場や液温が上がりやすい機械では注意が必要です。
  2. 正確な補充
    濃度が上昇している場合は、蒸発した水分を補うために**希釈水(できればイオン交換水や純水)**を補充します。補充量は、現在のタンク液量と濃度、目標濃度から計算します。補充時も攪拌しながら少しずつ加え、補充後に濃度を確認します。
  3. 水分蒸発の抑制(可能な範囲で)
    • タンクカバーの使用
      タンクの開口部を覆うことで、蒸発をある程度抑えることができます。
    • 液温管理
      クーラントチラー(冷却装置)を導入して液温の上昇を抑えることは、蒸発抑制に効果があります。ただし、コストがかかるため、費用対効果を検討する必要があります。
    • 室温管理
      工場全体の空調管理も間接的に蒸発抑制に繋がります。

濃度管理は、「測定して終わり」ではなく、「測定→判断→調整」のサイクルを継続的に行うことが重要です。

5. 濃度管理に関するよくある質問と回答(FAQ)

濃度管理に関するよくある質問と回答(FAQ)
濃度管理に関するよくある質問と回答(FAQ)

ここでは、切削油の濃度管理に関して、現場担当者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. 水溶性切削油を希釈する水は、何を使えばいいですか?

A1. 最も望ましいのは、**イオン交換水(純水)です。不純物が少ないため、切削油の性能を最大限に引き出し、安定性を高めます。しかし、コストや設備の面で導入が難しい場合も多いでしょう。 水道水を使用する場合は、その水質(特に硬度、塩素イオン濃度)**に注意が必要です。

  • 硬度
    カルシウムやマグネシウムイオンが多い高硬度水を使用すると、切削油中の脂肪酸などと反応して**金属石鹸(スカム)**を生成しやすくなります。これは、油剤の分離、フィルター詰まり、機械やワークへの付着、さらには防錆性や潤滑性の低下、濃度測定値への影響などを引き起こす可能性があります。一般的に、硬度は100ppm以下が望ましいとされますが、許容範囲は油剤によって異なります。
  • 塩素イオン
    塩素イオン濃度が高い水は、金属(特にアルミニウム)の腐食を促進する可能性があります。 日本の水道水は地域や季節によって水質が変動します。可能であれば、使用する水道水の水質分析を行い、切削油メーカー(サンワケミカル株式会社など)に情報を提供して、適合性や注意点について相談することをお勧めします。必要に応じて、軟水器などの水処理装置の導入も検討しましょう。

Q2. 自動濃度管理装置は導入した方が良いですか?

A2. 必須ではありませんが、以下のような場合には導入メリットが大きいと考えられます。

  • 大規模な集中クーラントシステム: 液量が多く、手作業での管理が大変な場合。
  • 厳密な濃度管理が求められる精密加工: 常に安定した濃度を維持したい場合。
  • 管理工数を削減したい場合: 人手不足や、管理作業の負担を減らしたい場合。 自動濃度管理装置は、センサーで濃度を連続監視し、必要に応じて水や原液を自動で補充するため、常に濃度を適正範囲内に保つことができます。ただし、初期導入コストやメンテナンスコストがかかるため、費用対効果を十分に検討する必要があります。まずは手動での濃度管理を徹底し、それでも課題が解決しない場合や、さらなる安定化・省力化を目指す場合に導入を検討すると良いでしょう。

Q3. 濃度の測定頻度は、どれくらいが良いですか?

A3. 最低でも週に1回は測定することを推奨します。しかし、より安定した管理のためには、できれば毎日始業前に測定するのが理想的です。 特に、以下のような場合は、測定頻度を高めることをお勧めします。

  • 新規に切削油を交換した後(濃度が安定するまで)
  • 液の補充を頻繁に行う機械
  • 液温が変動しやすい機械
  • 加工精度要求が厳しい場合
  • 過去に濃度変動によるトラブルが発生した機械 毎日の測定が難しい場合でも、液量が大きく変化した時(補充後など)は必ず測定するようにしましょう。測定値を記録に残し、変化の傾向を把握することも重要です。

Q4. 屈折計で測ったBrix値は、そのまま濃度として見てはいけないのですか?

A4. はい、Brix値をそのまま濃度(%)として見てはいけません。 前述の通り、屈折計はショ糖水溶液の濃度(Brix%)を基準に作られています。水溶性切削油に含まれる成分(鉱物油、合成潤滑剤、界面活性剤、各種添加剤など)はショ糖とは異なるため、同じ濃度でも光の屈折率が異なります。 そのため、Brix値から実際の濃度を知るためには、**その切削油固有の「換算係数(ファクター)」**が必要になります。例えば、換算係数が「1.5」の油剤の場合、屈折計の読み取り値が4.0 Brix%であれば、実際の濃度は 4.0 × 1.5 = 6.0% となります。 この換算係数は、製品の技術資料に記載されているか、メーカー(サンワケミカル株式会社など)に問い合わせることで確認できます。必ず正しい換算係数を用いて濃度を算出・管理してください。

Q5. 濃度は推奨範囲内なのに、加工不良(面粗度悪化、工具摩耗早いなど)が起きます。なぜでしょうか?

A5. 濃度は切削油の性能を左右する重要な要素ですが、それが全てではありません。濃度が適正範囲内であっても、以下のような他の要因で加工不良が発生することがあります。

  • pHの低下
    防錆性や耐腐敗性が低下している可能性があります。
  • 異物の混入
    微細な切りくずや砥粒、混入油などが潤滑・冷却を阻害したり、加工面を傷つけたりしている可能性があります。
  • 油剤の劣化
    長期間の使用により、潤滑成分や添加剤が劣化・消耗している可能性があります。見た目や濃度・pHだけでは分からない劣化が進んでいることもあります。
  • 切削条件の不一致
    切削速度、送り、切り込み量などが、ワーク材質や工具、使用している切削油に対して適切でない可能性があります。
  • 工具の摩耗・チッピング
    工具自体が摩耗限界に達していたり、微小な欠けが発生したりしているかもしれません。
  • 機械の状態
    機械の剛性不足や振動、クーラント供給量の不足なども影響します。 濃度管理は重要ですが、トラブル発生時は濃度以外の要因も幅広く疑い、総合的に原因を調査する必要があります。原因特定が難しい場合は、切削油メーカーに油剤の分析を依頼したり、加工条件について相談したりすることも有効な手段です。

まとめ

本記事では、水溶性切削油の濃度管理について、その重要性から、代表的な測定器である屈折計の使い方、種類別の適正濃度範囲、濃度が変動する要因と対策、そしてよくある質問(FAQ)まで、詳しく解説しました。

適切な濃度管理は、決して難しい専門技術が必要なわけではありません。正しい知識を身につけ、日々の測定と調整を継続することが、加工品質の安定化、工具寿命の延長、油剤寿命の延長、そしてコスト削減に繋がる、非常に効果的な管理手法です。

ぜひ、この記事を参考に、貴社の現場での濃度管理体制を見直し、より良い生産活動にお役立てください。


サンワケミカル株式会社は、長年の経験と技術に基づき、多種多様な切削油剤を開発・製造しております。お客様の加工条件やニーズに合わせた最適な製品をご提案いたしますので、切削油に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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今後も、金属加工の現場で役立つ情報を発信してまいりますので、サンワケミカル株式会社公式ブログにご期待ください。

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サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
副社長
金属加工油剤の営業一筋21年。常に「お客様の立場」を第一に考え、課題解決に誠実に取り組むことで、多くの企業様と長い信頼関係を築いてまいりました。「信頼の輪が大きな幸せを生む」という経営理念のもと、今後もお取引先様の発展と働く方々のお役に立てるよう努めてまいります。 趣味はサッカー。プレミアリーグを現地で観戦したい。
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