切削油, 旋盤加工, バイト, 油剤選定, 供給方法, 仕上げ面粗度, トラブル対策, 潤滑 【旋盤加工の極意】切削油活用法|基本から精度UPの応用テクニック

【旋盤加工の極意】切削油活用法|基本から精度UPの応用テクニック

【旋盤加工の極意】切削油活用法|基本から精度UPの応用テクニック
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旋盤加工は、その汎用性と精密さから、今日の金属加工において最も基本的かつ重要な加工方法の一つとして、自動車産業から航空宇宙、精密機械部品に至るまで、あらゆる分野の部品製造に不可欠な役割を担っています。この旋盤加工の現場において、最終的な製品の品質、使用するバイト(刃物)の寿命、そして生産ライン全体の効率を大きく左右するにも関わらず、その重要性が見過ごされがちなのが「切削油」の存在です。

「長年同じ切削油を使っているけれど、本当にこれが最適なんだろうか?」「もっと加工面の美しさを追求したいけれど、切削油で改善できることはないだろうか?」「バイトの摩耗が予想以上に早く、工具コストと交換の手間が大きな負担になっている…」といった具体的な悩みや、漠然とした疑問を抱えている現場担当者の方も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、旋盤加工のパフォーマンスを最大限に引き出すための「極意」とも言える切削油の効果的な活用法に徹底的に焦点を当てます。切削油が担う基本的な役割の再確認から始まり、使用するバイトの種類や加工条件(荒加工、仕上げ加工、高速加工など)に応じた最適な切削油の選び方、さらには加工点への効果的な供給方法、そして最終的な仕上げ面粗度を格段に向上させたり、頻発する加工トラブルを未然に防いだりするための具体的な応用テクニックに至るまで、網羅的かつ実践的に解説いたします。適切な切削油を選び、その潜在能力を最大限に引き出すことで、皆様の旋盤加工の品質と効率を、これまでにない新たなステージへと導くための一助となれば幸いです。

目次
  1. 1. 旋盤加工における切削油の役割と重要性
  2. 2. バイトの種類と最適な切削油の選び方
  3. 3. 切削条件に合わせた切削油の供給方法と注意点
  4. 4. 仕上げ面粗度を高めるための切削油活用術
  5. 5. トラブルシューティング:旋盤加工でよくある問題と対策
  6. まとめ

1. 旋盤加工における切削油の役割と重要性

旋盤加工における切削油の役割と重要性
旋盤加工における切削油の役割と重要性

旋盤加工は、回転するワークピース(加工対象物)に対して、バイト(刃物)を相対的に送り運動させることで、不要な部分を削り取り、目的の形状を創り出す加工方法です。この加工形態が持つ特有の性質と、そこで切削油が果たさなければならない多岐にわたる役割、そしてその使用がなぜこれほどまでに重要なのかという理由を深く理解することが、適切な切削油活用への確かな第一歩となります。

旋削加工特有の切削形態と切削油が担うべき4大役割

  • (1) 連続切削と高い切削速度がもたらす避けられない「熱」との戦い(冷却作用の極大化)
    多くの旋盤加工(特に外径加工や内径加工)は、バイトの切れ刃がワークピースに連続的に接触し続ける「連続切削」に分類されます。このため、切削点ではバイトとワークピース間、およびバイトと生成される切りくず間での摩擦によって発生する「摩擦熱」と、ワークピースの材料が塑性変形して切りくずになる際に発生する「塑性変形熱」が絶え間なく生じ、切削点は非常に高温になりやすいという宿命的な特徴があります。近年では、生産性向上の要求から、切削速度もますます高速化する傾向にあり、それに伴って単位時間あたりの発熱量もさらに増大しています。 ここで、切削油の最も基本的な役割の一つである「冷却作用」が極めて重要になります。切削油は、この高温になった切削点、ワークピース表面、バイトの切れ刃、そして生成された切りくずに対して効果的に供給されることで、発生した熱を迅速に吸収し、系外へ運び去ります。これにより、ワークピースの過度な温度上昇による熱膨張や熱変形を抑制し、加工寸法の精度を維持します。同時に、バイトの切れ刃が高温にさらされることによる硬度低下(軟化)や熱的な損傷(例えば、酸化摩耗の促進、熱亀裂の発生など)を軽減し、工具寿命の延長に大きく貢献します。
  • (2) 高負荷な切削点におけるシビアな「摩擦」との戦い(潤滑作用の最適化)
    バイトがワークピースに食い込み、材料を塑性変形させて切りくずを生成する際には、工具のすくい面(切りくずが通過する面)と切りくずの間、および工具の逃げ面(加工済み面と接触する面)と加工済み面との間に、非常に大きな摩擦力と圧力が作用します。この摩擦は、切削抵抗を増大させ、加工に必要な動力を増加させるだけでなく、工具摩耗を促進し、加工面のむしれや溶着、引きずり傷といった品質低下を引き起こす主要な原因となります。 切削油のもう一つの重要な役割である「潤滑作用」は、これらのトライボロジー的に厳しい接触面に介在し、強固な潤滑油膜を形成することで、金属同士の直接接触を極力防ぎ、摩擦を劇的に低減します。これにより、切削抵抗が効果的に減少し、加工動力の低減(省エネルギー化)、工具摩耗の抑制(特にフランク摩耗やクレータ摩耗)、そしてバリの発生を抑えた滑らかで美しい仕上げ面の実現に不可欠な役割を果たします。特に、ねじ切り加工のように接触面積が大きく、かつ切削速度が比較的低い加工や、ステンレス鋼のような難削材の低速での重切削など、潤滑条件が極めて厳しくなる加工においては、この潤滑作用の質が加工の成否を左右すると言っても過言ではありません。
  • (3) 連続的に、時には複雑な形状で生成される「切りくず」との戦い(切りくず処理作用の円滑化)
    旋盤加工では、多くの場合、切りくずが連続したカール状、リボン状、あるいはらせん状になって長く繋がって生成されやすい傾向があります。これらの切りくずが適切に処理(分断および排出)されないと、回転するワークピースやバイト、あるいはバイトホルダーや刃物台などに絡みついたり、加工済みの精密な表面を傷つけたり、機械の可動部に詰まって動作不良を引き起こしたりと、様々な深刻なトラブルの原因となります。 切削油は、その液圧と流量によって、生成された切りくずを加工点から速やかに洗い流し、機械のベッドやチップコンベアへとスムーズに排出させる「切りくず処理(洗浄・排出)作用」も担います。特に、自動盤での小物部品の連続加工や、内径加工、深溝加工のように、切りくずが加工領域内に滞留しやすい箇所では、この作用が加工の安定性と連続性を確保する上で極めて重要となります。また、切削油の種類によっては、切りくずの形状をコントロールし、分断しやすくする効果を持つものもあります。
  • (4) 切削によって新たに生まれ、酸化しやすい無防備な「金属表面」との戦い(防錆作用による品質保護)
    切削加工によって新たに生成された金属表面(加工済み面)は、原子レベルで見ると非常に活性が高く、大気中の酸素や水分と容易に反応して酸化し、錆びやすい状態にあります。特に、水溶性切削油を使用する場合、その主成分が水であるため、防錆対策は絶対に欠かすことができません。 切削油(特に水溶性タイプ)に配合されている各種の防錆剤(アミン系、カルボン酸系、スルホネート系など)は、加工後のワークピース表面や、切削油が飛散してかかる工作機械の金属部分(ベッド、主軸、刃物台、チャックなど)の表面に薄い保護被膜を形成し、錆の発生を効果的に防ぐ「防錆作用」を発揮します。これにより、加工された製品の品質を長期間維持することはもちろん、高価な工作機械の精度維持と寿命延長にも大きく貢献します。

もし切削油の恩恵を受けられなかったら…? 考えられる深刻な問題点の具体例

仮に、これらの4つの重要な役割を担う切削油を使用せずに、あるいは不適切な切削油を使用して旋盤加工を行った場合、加工現場では以下のような様々な深刻な問題が連鎖的に発生し、安定した高品質な生産は極めて困難になります。

  • 工具摩耗の著しい促進と、それに伴う工具寿命の激減
    潤滑不足による過大な摩擦抵抗と、冷却不足による切れ刃の異常な温度上昇(時には1000℃を超えることも)により、バイトはあっという間に摩耗し、頻繁な交換が必要になります。特に、逃げ面摩耗(フランク摩耗)、すくい面摩耗(クレータ摩耗)、境界摩耗などが設計寿命よりもはるかに早く進行し、工具コストが大幅に増大します。
  • 構成刃先の頻繁な生成・成長・脱落と、それに伴う加工面品質の著しい悪化
    特に軟鋼、低炭素鋼、アルミニウム合金といった比較的柔らかく凝着しやすい材料の加工では、潤滑が不十分だと切りくずがバイトの刃先に強く溶着・堆積して「構成刃先」と呼ばれる擬似的な刃先を形成します。この構成刃先は非常に不安定で、加工中に成長と剥がれ落ちを繰り返します。剥がれ落ちる際に、ワークピースの加工面の一部をむしり取ったり、新たな傷をつけたりするため、仕上げ面粗度が著しく悪化します。また、構成刃先の大きさや形状が変動することで、加工寸法も不安定になります。
  • 仕上げ面粗度の極端な悪化と外観不良
    潤滑不足は、加工面の引きずり傷、むしれ、溶着による凝着痕、さらには加工変質層(加工硬化層など)の過度な形成などを引き起こし、到底顧客から要求される仕上げ面粗度レベルを達成することはできません。製品の外観品質も著しく損なわれます。
  • 寸法精度の維持不能と不良品の多発
    ワークピースやバイト、工作機械各部が加工熱によって大きく、かつ不安定に熱膨張・収縮するため、加工中の寸法と加工後の常温に戻った際の寸法が大きく異なり、精密な寸法制御は不可能です。結果として、寸法不良による不良品が多発し、手直しや廃棄のコストが増大します。
  • 深刻な切りくず処理トラブルとそれに伴う機械停止
    生成された切りくずが適切に排出されず、長く連続した状態で回転するワークピースやバイト、あるいはバイトホルダーや刃物台などに複雑に巻き付き、加工面を広範囲に傷つけるだけでなく、バイトのチッピングや突発的な折損、さらには機械の主軸や送り機構に過大な負荷をかけて動作を停止させてしまうといった、重大なトラブルを引き起こす可能性があります。
  • 加工中の過度な発煙や火災発生リスクの増大
    特に、油性切削油を使用すべきような高負荷な加工条件で、切削油なし(ドライ加工)あるいは不適切な水溶性切削油を使用すると、切削点が異常な高温になりすぎて大量の発煙(オイルミストや油煙)が発生し、作業環境を著しく悪化させます。最悪の場合、高温になった切りくずや、機械に付着した油分などから発火し、火災に至る危険性も否定できません。

これらの点を総合的に踏まえれば、旋盤加工という一見単純に見える加工プロセスにおいても、切削油がいかに「縁の下の力持ち」として、加工品質の向上、工具寿命の延長、生産性の確保、そして作業安全の維持という多岐にわたる面で、決定的に重要な役割を果たしているかが明確にご理解いただけるでしょう。そして、その役割を最大限に発揮させるためには、加工の目的や条件に合致した最適な切削油を選定し、それを正しく使用・管理することが、いかに重要であるかということもまた、明らかです。

2. バイトの種類と最適な切削油の選び方

バイトの種類と最適な切削油の選び方
バイトの種類と最適な切削油の選び方

旋盤加工で使用されるバイト(刃物)は、その母材となる材質、切れ刃部分の形状、そして施されるコーティングの種類によって、驚くほど多様なバリエーションが存在します。それぞれのバイトが持つ独自の特性(硬度、靭性、耐熱性、耐摩耗性など)を最大限に引き出し、その寿命を延ばしつつ、高品位な加工を実現するためには、バイトの種類に適合した最適な切削油を選定することが、極めて重要なポイントとなります。さらに、加工の目的、例えば大量の金属を迅速に除去することを主眼とする「荒加工」なのか、あるいは最終的な寸法精度と表面の美しさを決定づける「仕上げ加工」なのかによっても、切削油に求められる主要な性能(冷却性重視か、潤滑性重視かなど)は大きく異なってきます。

バイトの材質・形状と、それに呼応する最適な切削油のタイプおよび添加剤の考え方

  • ハイスバイト(HSS:High Speed Steel、高速度鋼バイト)
    • 特徴
      タングステン、モリブデン、クロム、バナジウム、コバルトなどを含む合金工具鋼であり、優れた靭性(粘り強さ、欠けにくさ)を有しています。そのため、断続切削や振動が発生しやすい加工条件下でも比較的安定した性能を発揮します。また、研削によって鋭利な切れ刃(シャープエッジ)を容易に形成できるため、特に非鉄金属(アルミニウム合金、銅合金など)や快削鋼といった比較的柔らかい材料の仕上げ加工において、良好な面粗さが得られることがあります。ただし、耐熱性は後述する超硬合金に比べて劣るため、切削速度は比較的低速から中速域に限定されます。
    • 最適な切削油の考え方
      • 油性切削油の活用
        潤滑性を最優先する場合、特に低速域での精密な仕上げ加工(例:Ra0.8μm以下の面粗度要求)、高品質なねじ切り加工、深い溝入れ加工、あるいは総形バイトによる複雑形状加工など、高い潤滑性が切削面の品質や工具寿命に直結する場面で、油性切削油はその真価を発揮します。硫黄、塩素、リンなどを含む活性タイプの極圧(EP)添加剤が配合されたものは、より厳しい切削条件下での焼付きや溶着を防ぎますが、被削材(特に銅合金など)の変色や、工作機械の構成部品への影響も考慮する必要があります。銅合金やアルミニウム合金などの非鉄金属には、これらの活性添加剤を含まない不活性タイプの油性切削油が推奨されます。
      • エマルジョン型水溶性切削油のバランス
        冷却性と潤滑性のバランスを取りたい場合、あるいはある程度の生産性を確保したい場合に、エマルジョン型水溶性切削油が汎用的に使用されます。ハイスバイトの耐熱性は超硬合金ほど高くないため、切削熱を効果的に除去する冷却作用も重要です。鉱物油の含有率が高く、油性向上剤(エステル類、動植物性油脂、合成炭化水素など)や摩擦調整剤(FM剤)を効果的に配合し、潤滑性能を高めた製品が、仕上げ面の向上や工具寿命の延長に貢献します。
  • 超硬バイト(WC-Co系超硬合金チップ、一般的にスローアウェイチップとして使用)
    • 特徴
      炭化タングステン(WC)の硬質粒子をコバルト(Co)などの金属で焼結した複合材料であり、現在の旋盤加工において最も主流となっています。ハイスに比べて格段に高い硬度、優れた耐熱性(約800~1000℃程度まで)、そして高い耐摩耗性を持ち、これにより高速・高能率な切削加工を可能にしています。様々な切れ刃形状やチップブレーカー形状を持つチップ(一般にスローアウェイチップと呼ばれる交換刃)が市販されており、摩耗した切れ刃の交換も迅速かつ容易に行えます。
    • 最適な切削油の考え方
      • ソリュブル型水溶性切削油の優位性
        超硬バイトを用いた高速切削では、単位時間あたりの発熱量が非常に大きくなるため、高い冷却性能を持つソリュブル型水溶性切削油が最も一般的に、かつ効果的に使用されます。ソリュブル型は、鉱物油の含有量が少ないか全く含まず、主として界面活性剤の働きで水に溶解または微細分散するため、水の持つ高い比熱と熱伝導性を活かした優れた冷却効果を発揮します。また、一般的に粘度が低く、良好な洗浄性(切りくず排出性)も併せ持つため、加工点の視認性を確保しやすいというメリットもあります。
      • エマルジョン型水溶性切削油の適用範囲
        中程度の切削速度域で、潤滑性と冷却性のバランスをより重視したい場合や、特にステンレス鋼(SUS304、SUS316など)やニッケル基超合金(インコネルなど)といった、いわゆる難削材の加工においては、エマルジョン型水溶性切削油も有効な選択肢となります。これらの難削材は、加工硬化性が高く、熱伝導率が低く、工具との親和性(凝着しやすさ)が高いといった特徴を持つため、切削油には高い潤滑性と極圧性が要求されます。このため、鉱物油の含有率が比較的高く、塩素系や硫黄系の極圧(EP)添加剤や、高分子系の潤滑性向上剤などを効果的に配合したエマルジョンタイプが、工具寿命の延長や仕上げ面の向上に大きく貢献します。
      • 油性切削油の限定的な適用
        特定の難削材(例えば、一部のチタン合金や高硬度鋼)の極めて低速域での重切削や、鏡面仕上げのような極めて高い面精度が要求される特殊な仕上げ加工、あるいは微細なねじ切り加工など、限定的な条件下においては、油性切削油も選択肢となり得ます。しかし、超硬バイトの高速加工における多量の発熱に対して油性切削油の冷却能力は一般的に不十分であり、発煙や引火のリスク、作業環境への影響、そしてコスト面などを総合的に考慮すると、その適用は慎重に判断されるべきです。
  • サーメットバイト、セラミックバイト、CBN(立方晶窒化ホウ素)バイト、PCD(多結晶ダイヤモンド)バイト(これらもスローアウェイチップとして供給されることが多い)
    • 特徴
      これらは超硬合金よりもさらに高い硬度を持ち、特に優れた耐熱性や化学的安定性、耐摩耗性を有する先進的な工具材料です。
      • サーメット
        TiC(炭化チタン)やTiN(窒化チタン)を主成分とし、Ni(ニッケル)やCo(コバルト)で結合した焼結合金。鋼の高速仕上げ加工で優れた耐摩耗性と美しい仕上げ面を実現します。
      • セラミックス
        アルミナ(Al2O3)系や窒化ケイ素(Si3N4)系など。超硬合金では対応できないような高硬度材(焼入れ鋼など)の高速切削や、鋳鉄の超高速加工などに用いられます。
      • CBN
        ダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、特に鉄系高硬度材(焼入れ鋼、高速度鋼など)の精密仕上げ加工で圧倒的な性能を発揮します。
      • PCD
        現在知られている物質の中で最高の硬さを持ち、アルミニウム合金、銅合金、マグネシウム合金といった非鉄金属や、FRP、セラミックス、超硬合金といった非金属・複合材料の高速・高精度加工で優れた性能を示します。 これらのバイトは、一般的に靭性が低く、衝撃に対して脆いという共通の弱点も持ち合わせています。
    • 最適な切削油の考え方
      これらの先進的なバイト材料は、その極めて高い耐熱性から、ドライ(乾式)切削や、油剤の使用量を極限まで絞ったMQL(Minimum Quantity Lubrication:最小量潤滑)、あるいは圧縮空気のみを吹き付けるエアブローといったセミドライ加工が積極的に適用されることが多いです。 しかし、被削材の種類や加工条件によっては、ウェット(湿式)切削が有利な場合もあります。その場合は、冷却性を最優先し、かつバイトの切れ刃に急激な温度変化(熱衝撃)を与えないように、加工点へ安定して大量に切削油を供給できるソリュブル型やシンセティック型(化学合成型)水溶性切削油が基本的な選択となります。これらの油剤は、油性成分が少ないか全く含まないため、高い冷却性と優れた洗浄性(切りくずや研磨粉の除去)を発揮します。 特にCBNやPCDバイトの場合、非常にデリケートな材料であるため、切削油に含まれる化学成分との不所望な反応(例えば、特定のアルカリ性成分によるダイヤモンドの触媒的な黒鉛化など)を避けるため、バイトメーカーが推奨する専用の切削油を選定するか、化学的に極めて不活性な成分で構成された油剤を選ぶことが重要になる場合があります。必ずバイトメーカーの技術資料や推奨情報を確認してください。

加工の目的(荒加工 vs 仕上げ加工)に合わせた切削油選定の基本ポイント

  • 荒加工(ラフィング、粗旋削)
    • 主たる目的
      最終的な製品形状に近づけるために、単位時間あたりにできるだけ多くの金属(切りくず)を迅速かつ効率的に除去することが最優先されます。つまり、加工能率の最大化が重視されます。
    • 切削油に求められる主要性能
      大量の切りくずと高い切削熱が連続的に発生するため、(1)切削点を効果的に冷却し、工具やワークの過熱を防ぐ高い冷却性、(2)生成された切りくずを迅速に加工点から排出し、再切削や絡みつきを防ぐ良好な切りくず排出性(洗浄性)が最も重要となります。また、工具刃先を保護し、過度な摩耗を防ぐために、ある程度の潤滑性も必要です。
    • 推奨される切削油タイプ
      一般的には、冷却性と洗浄性に優れるソリュブル型水溶性切削油が適しています。切り込み量が特に大きい場合や、被削材が比較的粘り強い場合には、適度な潤滑性を併せ持ち、極圧添加剤が配合されたエマルション型水溶性切削油も有効な選択肢となります。
  • 仕上げ加工(フィニッシング、精旋削)
    • 主たる目的
      設計図面で要求される最終的な寸法精度(公差)と、滑らかで美しい表面粗さを高いレベルで実現することが最優先されます。つまり、加工品質の最大化が重視されます。
    • 切削油に求められる主要性能
      微細な表面の凹凸をできる限り平滑にし、むしれや引きずり傷のない美しい仕上げ面を得るために、(1)工具とワークの間の摩擦を極限まで低減する優れた潤滑性が最も重要となります。同時に、加工中の微細な熱変位による寸法誤差を防ぐための適度で安定した冷却性も求められます。
    • 推奨される切削油タイプ
      • 油性切削油
        特に高い寸法精度や、鏡面に近いような極めて優れた仕上げ面が要求される場合には、潤滑性能に特化した油性切削油(特に硫黄や塩素を含まない低粘度で不活性なタイプ)が最適です。
      • 水溶性切削油
        高速での仕上げ加工や、ある程度の冷却性を確保しながら高い潤滑性も両立させたい場合には、油性向上剤(合成エステル、動植物性油脂、特殊ポリマーなど)や摩擦調整剤(FM剤)を効果的に、かつ高濃度に配合したエマルション型水溶性切削油が推奨されます。また、潤滑性能を大幅に強化した特殊なソリュブル型やシンセティック型水溶性切削油も、近年の技術進歩により登場しており、選択肢となり得ます。

切削油の選定は、まさに「ケースバイケース」であり、一つの正解があるわけではありません。使用するバイトの種類と材質、加工の目的(荒加工か仕上げか)、被削材の特性、工作機械の能力、そして求める加工品質やコストといった多くの要因を総合的に考慮し、バランスの取れた最適な一本を見つけ出すことが、旋盤加工のパフォーマンスを最大限に引き出すための鍵となります。サンワケミカル株式会社では、これらの複雑な要因を詳細にお伺いした上で、お客様の個々のニーズに合致した最適な切削油製品の選定を、専門的な知識と豊富な経験に基づいてサポートさせていただいております。

3. 切削条件に合わせた切削油の供給方法と注意点

切削条件に合わせた切削油の供給方法と注意点
切削条件に合わせた切削油の供給方法と注意点

旋盤加工において、たとえ最高性能の切削油を選定したとしても、その供給方法が加工の実態や条件に対して不適切であれば、期待される効果を十分に引き出すことはできません。「どのようにして切削油を供給するか」「加工点のどこへ狙って供給するか」「どれくらいの量と圧力で供給するか」といった供給技術の巧拙は、最終的な加工品質、工具寿命、そして生産効率を大きく左右する、見過ごすことのできない重要な要素です。特に、旋盤加工で一般的に行われる外径加工、内径加工、ねじ切り加工といった具体的な加工方法の違いや、近年ますます要求が高まっている高速切削といった特殊な切削条件に応じて、最適な切削油供給方法を適用し、細心の注意を払う必要があります。

加工方法の特性に応じた適切な切削油供給テクニックのポイント

  • 外径旋削(円筒加工、端面加工、テーパ加工、倣い加工など)
    • 基本的な供給方法
      最も一般的で基本的な供給方法は、工作機械に標準的に備え付けられているクーラントノズルから、加工点に向けて切削油を連続的に注油(フラッドクーラント、いわゆる「かけ流し」)する方式です。この際、バイトの切れ刃がワークピースに接触し始める点、切りくずがまさに生成される点、そして加工が進行していく加工済み面に対して、十分な量の切削油が途切れることなく、かつ均一にかかるように供給することが肝要です。
    • ノズル位置の最適化という「技」
      • すくい面側への供給の重要性
        生成される切りくずの流れを潤滑し、切りくずとバイトすくい面との間の摩擦熱を低減し、さらに切りくずのスムーズな排出を促進するためには、バイトのすくい面(切りくずが通過していく面)に向けて切削油を供給することが非常に重要です。
      • 逃げ面側への供給の配慮
        加工済み面とバイト逃げ面との間の摩擦を低減し、仕上げ面の品質を保護・向上させるためには、バイトの逃げ面側にも切削油を供給できると理想的です。これを実現するために、複数のノズルを使用したり、特殊な形状(例えば、スリット状やシャワー状)のノズルを採用したり、あるいはノズルの角度や位置を微調整したりといった工夫が求められます。
      • 狙い所は「バイトの刃先」と「切りくず生成点」
        効果的な冷却と潤滑を実現するための基本的な狙い所は、まさに金属が切削される「バイトの刃先先端」と、そこから切りくずが生まれ流れ出す「切りくず生成点」です。
    • 吐出量と圧力の適切な調整
      切削速度、切り込み量、送り速度、そして被削材の種類や硬さといった切削条件に応じて、切削油の吐出量(流量)と吐出圧力を適切に調整する必要があります。一般的に、切削条件が厳しくなる(例えば、高速・高負荷な加工)ほど、より多くの流量とより高い圧力が必要となる傾向にありますが、過剰な供給は切削油の無駄な飛散や、不必要な泡立ちの原因ともなり得るため、常に最適なバランスを見極めることが重要です。
  • 内径旋削(中ぐり加工、内径溝入れ加工、内径ねじ切り加工など)
    • 内径加工特有の供給の難しさ
      内径加工においては、加工点がワークピースの内部に隠れてしまい、外部から直接視認することが困難です。そのため、切りくずの排出が外部加工(外径加工など)に比べて格段に難しく、加工穴の底や側面に切りくずが滞留しやすいという大きな課題があります。また、切削油もバイトの刃先まで十分に届きにくいという問題も抱えています。
    • スルークーラント方式の圧倒的な有効活用(強く推奨)
      これらの課題を解決するために、ボーリングバーや内径加工用のバイトホルダーの内部に油穴(クーラントホール)が設けられており、工具の先端(刃先近傍)から直接、高圧で切削油を噴射する「スルークーラント方式」が極めて有効です。この方式により、(1)バイトの刃先に対して直接的かつ確実に冷却と潤滑を行うことができる、(2)高圧の液流によって生成された切りくずを強制的に、かつ効率よく加工穴の外へ排出することができる、という二つの大きなメリットが得られ、加工の安定性と品質が飛躍的に向上します。
    • 外部給油方式の場合の創意工夫
      スルークーラント方式の工具が使用できない場合には、外部からのクーラント供給に頼らざるを得ませんが、その際には最大限の工夫が求められます。できるだけ細く、かつ長いノズルを使用し、加工穴の奥深くにあるバイトの刃先に向けて、可能な限り直接的に切削油を供給するように努めます。ノズルの取り付け角度や噴射方向を精密に調整することが不可欠です。場合によっては、複数のノズルを異なる角度から同時に供給したり、特殊な形状の延長ノズルを使用したりすることも効果的です。
  • ねじ切り加工(おねじ、めねじ)
    • 供給方法の要点
      ねじ切り加工は、比較的低い切削速度で行われることが多いですが、切れ刃とワークの接触面積が大きく、高い潤滑性が要求される代表的な加工です。切削油が、ねじ切りバイトの全ての切れ刃(山と谷を形成する部分)に、均一かつ十分に行き渡るように供給することが重要です。特に、多条ねじ(複数のねじ山が平行して切られる)や、ピッチの細かい(ねじ山の間隔が狭い)ねじを切る際には、油膜切れを起こしやすく、加工面のむしれや工具摩耗の原因となるため、細心の注意が必要です。
    • 供給のポイント
      バイトの進行方向や、切削されるねじ山の谷間に切削油が効果的に流れ込むように、クーラントノズルの向きや位置を工夫します。油性切削油を使用する場合、粘度が高すぎると微細な切れ刃部分まで浸透しにくいことがあるため、適切な粘度の選定も大切になります。水溶性切削油を使用する場合は、潤滑性能を確保するために、濃度をメーカー推奨範囲内でやや高めに設定することが一般的です。
  • 突っ切り加工・溝入れ加工
    • 供給方法の要点
      これらの加工では、生成された切りくずが加工された溝の中に詰まりやすく、また、バイトの側面もワークと接触して摩擦を受けるため、摩擦熱が発生しやすいという特徴があります。したがって、潤滑性能の確保と、切りくずの効果的な排出の両方が極めて重要となります。
    • 供給のポイント
      幅の狭い突っ切りバイトや溝入れバイトの両方の側面と、主たる切れ刃の先端に、均一に切削油が供給されるように、細いノズルを使用したり、バイトを挟み込むように両側から供給したりするなどの工夫が効果的です。高圧で切削油を供給することで、溝の中に滞留しやすい切りくずを強制的に排出する効果も期待できます。

高速切削時における油膜保持と冷却効果を最大限に高めるための工夫

近年、工作機械の高性能化や工具材料の進歩に伴い、旋盤加工においても生産性向上のために切削速度を大幅に上げる「高速切削」が積極的に採用されるようになっています。しかし、高速切削時には、切削油の供給において以下のような特別な配慮と工夫が不可欠となります。

  • 油膜切れ対策の徹底
    高速で回転するワークピースや、高速で移動するバイトによって、供給された切削油が遠心力や空気の流れによって激しく吹き飛ばされてしまい、肝心な加工点での潤滑油膜が途切れてしまう、いわゆる「油膜切れ」が発生しやすくなります。
    • 具体的な対策
      • 高圧・大流量での供給
        遠心力や空気抵抗に打ち勝って、加工点に切削油を強制的に押し込むために、クーラントの供給圧力と流量を、通常の切削条件よりも大幅に高めに設定します。
      • 切削油の粘度と添加剤の考慮
        極端に低粘度の切削油は、高速条件下では飛散しやすい傾向があります。ある程度の粘度を持ち、かつ金属表面への吸着性や濡れ性を高め、油膜の強度を向上させる特殊な添加剤(例えば、高分子ポリマーや特殊エステルなど)が配合された切削油を選定することも有効な対策となります。
      • ノズル形状、数、および配置の最適化
        加工点に対して集中的に、かつ広範囲をカバーできるように、ノズルの噴射形状(例:フラットノズル、コーンノズル、シャワーノズルなど)や、ノズルの数、そしてそれらの取り付け位置や角度を精密に最適化する工夫が必要です。
  • 冷却効果の最大化への挑戦
    高速切削では、単位時間あたりに加工される金属の体積が大きくなるため、それに比例して発生する切削熱も膨大な量になります。この熱を効果的に除去できなければ、工具の早期摩耗やワークの熱変形は避けられません。
    • 具体的な対策
      • 冷却性能に極めて優れた切削油の選定
        水を主成分とし、比熱や熱伝導率が高いソリュブル型やシンセティック型水溶性切削油が、高速切削における冷却には基本的に有利です。
      • 大流量での供給(フラッシング効果)
        大量の切削油を加工点に供給することで、熱を強制的に、かつ速やかに奪い去ります(フラッシング効果)。
      • クーラントチラーの積極的な活用
        切削油自体の温度を、例えば室温よりも低い目標温度で高精度に安定させることにより、冷却能力を最大限に引き出します。(この詳細については、以前の記事「切削油の温度管理で加工精度を上げる」をご参照ください。)
  • オイルミスト発生対策の必須性
    高速で回転するワークや工具、そして高圧で噴射される切削油は、油剤の微細な液滴(オイルミスト)の発生を著しく助長します。このオイルミストは、作業環境を悪化させ、作業者の呼吸器系への健康影響が懸念されるだけでなく、工場内の床や壁、他の設備を汚染する原因ともなります。
    • 具体的な対策
      ミストの発生量が少ないように特別に設計された「低ミストタイプ」の切削油を選定する、工作機械に高性能なミストコレクター(オイルミスト捕集装置)を設置する、加工エリアを可能な限り密閉性の高いカバーで覆うといった複合的な対策が不可欠です。

切削油供給時における一般的ながら重要な注意点

  • 供給の連続性と安定性の確保
    加工中は、いかなる理由があっても切削油の供給を中断しないことが大原則です。供給が断続的になると、切れ刃が急冷と急加熱を繰り返すことによる熱衝撃で微細なクラック(亀裂)が発生し、そこからチッピングや欠損に繋がる可能性があります。また、局所的な潤滑不良も引き起こします。
  • クーラントノズルの定期的な点検・清掃の励行
    クーラントノズルは、微細な切りくずやタンクから混入したスラッジ、あるいは水溶性切削油の成分が析出したものなどで、意外と簡単に詰まってしまうことがあります。ノズルが詰まると、当然ながら切削油の供給量が著しく低下したり、狙った方向とは違う方向に噴射されたりしてしまいます。日常点検や定期的な機械メンテナンスの際には、必ずノズルの状態を確認し、必要に応じて丁寧に清掃したり、損傷していれば交換したりするようにしましょう。
  • クーラントフィルターおよび循環システム全体の管理の徹底
    クーラントタンク内に設置されているフィルター(ストレーナー、カートリッジフィルターなど)が目詰まりすると、クーラントポンプの吐出圧力が低下し、各ノズルへの供給量が不足する原因となります。フィルターも、その種類に応じて定期的な点検・清掃・交換が不可欠です。また、ポンプ自体の性能劣化や、配管の途中での漏れや詰まりなど、循環システム全体が正常に機能しているかどうかも、安定した切削油供給のためには重要なチェックポイントです。(この詳細については、以前の記事「切削油の清浄度管理入門」をご参照ください。)

これらのポイントを常に念頭に置き、それぞれの旋盤加工の具体的な内容や条件に合わせて、最適な切削油供給方法を追求し、それを維持管理していくことが、加工の安定化と品質向上、そしてトラブルの未然防止に繋がるのです。

4. 仕上げ面粗度を高めるための切削油活用術

仕上げ面粗度を高めるための切削油活用術
仕上げ面粗度を高めるための切削油活用術

旋盤加工において、特に最終的な製品の「顔」とも言える外観品質や、摺動部品などの機能性を決定づける上で、極めて重要な評価項目となるのが「仕上げ面粗さ」です。顧客から要求されるナノメートルオーダー(1nm = 1/100万mm)に迫るような厳しい面粗度を安定して達成するためには、高精度な工作機械の選定、最適な切れ刃形状を持つバイトの選択、そして精密にコントロールされた切削条件の設定といった要素に加え、実は「切削油の選定とその高度な活用方法」が、決定的な鍵を握っていると言っても過言ではありません。

仕上げ加工に最適な「低粘度・高潤滑」というキーワードを持つ切削油の選び方

一般的に、旋盤加工における仕上げ工程では、切り込み量が小さく、切削抵抗そのものは荒加工の工程ほど大きくはありません。しかし、その一方で、ワークピース表面の微細な凹凸をいかに限りなく平滑にし、スクラッチ傷やむしれ、白濁といった欠陥のない、鏡面に近いような美しい表面を創り出すかが厳しく問われます。

  • 油性切削油が持つ仕上げ加工における本質的な優位性
    最高の仕上げ面粗度を追求する多くのケースにおいて、基本的には油性切削油が最も適しているとされています。その主な理由は、油性切削油が分子レベルで金属表面に作用し、極めて高い潤滑性能を発揮できる能力にあります。
    • 「低粘度」がもたらす浸透性と清浄性
      油性切削油の中でも、特に粘度が低い(例えば、動粘度が2~10mm²/s @40℃程度のサラサラとした)タイプは、微細な切削が行われるバイトの切れ刃先端部や、加工されるワーク表面と工具逃げ面との間に形成される極めて微小な隙間(クリアランス)にも、迅速かつスムーズに浸透していくことができます。これにより、これらの重要箇所に確実な潤滑油膜を形成し、金属同士の直接的な接触を効果的に防ぎます。また、低粘度であることは、生成された微細な切りくずや研磨粉を洗い流す「セルフクリーニング効果(洗浄性)」にも寄与し、加工面への再付着や引きずりを防ぎます。
    • 「不活性タイプ」の選定による非鉄金属への適合性
      銅、真鍮、アルミニウム合金といった非鉄金属の仕上げ加工においては、切削油に含まれる添加剤との化学反応による表面の変色(シミやステイン)が問題となることがあります。このため、硫黄系や塩素系の活性型極圧(EP)添加剤を含まない、いわゆる「不活性タイプ」の油性切削油を選定することが、変色リスクを抑えつつ、優れた仕上げ面を得るための重要なポイントとなります。
  • 水溶性切削油を用いた仕上げ加工へのアプローチとその可能性
    近年の高速仕上げ加工のニーズや、油性切削油の使用に伴う作業環境(油煙、火災リスク、ベタつきなど)への配慮から、水溶性切削油を用いて高い仕上げ面粗度を達成しようとする試みも積極的に行われています。この場合、通常の汎用的な水溶性切削油では潤滑性能が不足することが多いため、潤滑性能を特別に強化したタイプを選定することが絶対的な鍵となります。
    • 「油性向上剤」の戦略的な活用
      エステル類(合成エステル、天然油脂由来のエステルなど)、高級脂肪酸、動植物性油脂、あるいは特殊な合成炭化水素といった「油性向上剤」を効果的に、かつ比較的高濃度に配合したエマルション型やソリュブル型水溶性切削油は、主成分が水でありながら、油性切削油に近いような高い潤滑性を発揮することができます。これらの油性向上剤は、金属表面への吸着性が高く、強固な物理吸着膜を形成することで、境界潤滑領域(油膜が極めて薄い状態)における摩擦と摩耗を大幅に低減し、仕上げ面の品質向上に大きく貢献します。
    • シンセティック型(化学合成型)水溶性切削油の進化と展望
      従来、シンセティック型水溶性切削油は、主に冷却性や洗浄性、耐腐敗性に優れる一方で、潤滑性はエマルション型やソリュブル型に劣るとされてきました。しかし、近年の添加剤技術や配合技術の進歩により、特殊な水溶性潤滑ポリマーや合成潤滑基剤などを配合することで、高い潤滑性能と優れた仕上げ面を実現する、いわゆる「潤滑型シンセティック」とも呼べる製品が登場してきています。これらは、シンセティック型が本来持つ高い冷却性、優れた洗浄性、そして長期にわたる腐敗安定性といったメリットを維持しながら、従来は困難とされてきた高品位な仕上げ加工への適用を可能にしています。

仕上げ面を左右する!油膜形成を助ける「キー添加剤」の役割とその効果

切削油に微量ながらも戦略的に配合されている各種の化学添加剤は、特に仕上げ面粗度の向上において、目には見えないながらも極めて重要な役割を果たしています。

  • 油性向上剤(Oily Agent / Lubricity Improver)
    金属表面との「親和力」で滑りを良くする 前述の通り、脂肪酸、エステル、高級アルコール、動植物油といった極性基を持つ有機化合物が代表的です。これらの分子は、その極性基の部分で金属表面に強く物理的に吸着し、分子同士が密に配向した強固な「吸着油膜」を形成します。この油膜が、金属同士の直接接触を防ぎ、摩擦係数を大幅に低減させることで、加工面の平滑性を高め、美しい光沢のある仕上がりや、むしれや引きずり傷のない清浄な表面を実現するのに極めて効果的です。
  • 極圧添加剤(EP剤:Extreme Pressure Agent)
    過酷な条件下で「化学の盾」となる 硫黄系、リン系、塩素系(現在は環境規制で使用が限定的)などの有機化合物が代表的です。仕上げ加工のように切り込み量が比較的小さい場合、その効果は荒加工ほど顕著ではないかもしれませんが、バイトの切れ刃先端部のような極めて高い接触圧力と温度が発生する微小領域を保護し、微細な金属溶着(マイクロウェルド)を防ぐことで、間接的に仕上げ面の品質維持に貢献します。ただし、活性の強すぎる極圧添加剤(特に活性硫黄系や活性塩素系)は、加工熱によって分解し、金属表面と化学反応を起こして仕上げ面を変色させたり、不必要な反応層を形成したりする可能性があるため、特に非鉄金属の仕上げや、高い清浄度が求められる場合には、成分の選定に細心の注意が必要です。
  • 摩擦調整剤(FM剤:Friction Modifier)
    摩擦を「最適にコントロール」する 特定の有機モリブデン化合物やアミン誘導体などが用いられることがあります。これらは、摩擦係数を単に低減するだけでなく、特定の範囲にコントロールすることで、加工中のスティックスリップ(滑ったり引っかかったりを繰り返す微振動で、びびり振動の一因となる)の発生を抑制し、より安定した切削と均一な厚さの切りくず生成を促し、結果として均一で高品質な仕上げ面を得るのに役立つ場合があります。

究極の仕上げ面を得るための切削油供給方法と厳密なワーク・油剤温度管理の重要性

最高の性能を持つ仕上げ用切削油を選定したとしても、その供給方法や加工が行われる環境条件が適切でなければ、期待される究極の仕上げ面品質を得ることはできません。

  • 清浄度が極めて高い切削油の「クリーンな」供給体制の確立
    旋盤による仕上げ加工、特に鏡面仕上げや超精密仕上げといった領域では、切削油中に浮遊しているμm(マイクロメートル)オーダーの微細な異物(例えば、1~5μm程度の見えないような微細な切りくずの破片や砥粒、あるいは外部から混入した空気中のホコリなど)ですら、回転するワークピースの精密な加工面を引っ掻き、致命的なスクラッチ傷や曇りの原因となります。したがって、使用する切削油は、高性能な精密フィルター(例えば、絶対ろ過精度で5μm以下、場合によっては1μmやそれ以下のろ過精度を持つカートリッジフィルターやメンブレンフィルターなど)で十分に、かつ連続的にろ過され、極めて高い清浄度レベル(例えば、NAS等級で5級以下、ISO等級で14/12/09以下など、要求に応じて)が維持されていることが絶対的な条件となります。
  • 加工点への「狙いを定めた」精密かつ均一な供給技術
    バイトの切れ刃先端、特に加工済み面と接触する逃げ面と、新たに生成される加工面との間に、途切れることなく、均一な厚さの潤滑油膜が常に形成されている状態を作り出す必要があります。そのためには、クーラントノズルの取り付け位置、噴射角度、噴射形状(例えば、フラットな流れか、シャワー状か、ピンポイントか)、そして供給する切削油の流量と圧力を、μm単位で精密に調整し最適化することが求められます。場合によっては、複数のノズルを異なる方向から同時に使用したり、ワークピースの回転やバイトの精密な動きに合わせて供給方向を同期させたりするような、高度な供給技術の工夫が必要となることもあります。
  • ワークピース、工作機械、そして切削油の「厳密な温度管理」の徹底
    究極の仕上げ加工では、ミクロンオーダー(1/1000mm)の寸法精度と同時に、時にはナノメートルオーダー(1/100万mm)の表面粗さが要求されることもあります。このような超精密加工の領域においては、ワークピース、工作機械の各構成部品(主軸、ベッド、刃物台、ボールねじなど)、そして切削油自体のわずかな温度変化によって引き起こされる熱変位(熱膨張・収縮)が、最終的な加工精度や面粗さに無視できない、むしろ支配的な影響を及ぼします。 したがって、高精度なクーラントチラーや、場合によっては工場全体の恒温空調システムなどを用いて、切削油の温度を極めて厳密に一定(例えば、設定した室温に対して±0.5℃以内、あるいはさらに厳しい±0.1℃以内など)に保つことは、熱変位の影響を最小限に抑制し、常に安定した超精密な仕上げを実現するための、避けては通れない必須条件となります。また、切削油の温度が厳密に安定することで、その粘度特性や含有される各種添加剤の効果も常に一定に保たれ、常に最適な潤滑状態を維持しやすくなるという副次的な効果も期待できます。

サンワケミカル株式会社では、お客様が目指される究極の仕上げ面粗度や、極めて厳しい寸法公差を達成するために、最適な性能を持つ特殊な仕上げ加工用切削油剤の選定・開発はもちろんのこと、その効果を最大限に引き出すための高度な切削油供給システムの設計、厳密な温度管理体制の構築、そして超精密フィルタリングシステムの導入に関するコンサルティングまで、トータルな技術サポートを提供しております。「これ以上の仕上げは不可能だろうか」と諦める前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

5. トラブルシューティング:旋盤加工でよくある問題と対策

トラブルシューティング:旋盤加工でよくある問題と対策
トラブルシューティング:旋盤加工でよくある問題と対策

旋盤加工は、その汎用性の高さゆえに多様な加工が行われ、それに伴い様々なトラブルが発生する可能性も秘めています。ここでは、旋盤加工の現場で比較的よく遭遇する代表的なトラブルを取り上げ、その主な原因を分析し、特に切削油の観点から有効と考えられる具体的な対策や改善のヒントを提案します。

トラブル1:バイトのチッピング(切れ刃の微小な欠損)や突発的な折損が頻発する

  • 考えられる主な原因
    • 機械的要因
      切削抵抗の急激な変動(例えば、断続切削、鋳肌や黒皮残り部分への食い込み、切り込み量の不均一など)、加工システム全体のびびり振動の発生、工具の突き出し長さが過大でバイトやホルダーの剛性が不足している、ワークピースのクランプ(把握)が不十分で加工中に動いてしまう。
    • 工具的要因
      使用しているバイトの材種(例えば、靭性の低い超硬合金やサーメット)や切れ刃の形状(シャープすぎるエッジ、ネガティブすぎるランド角など)が、被削材や切削条件に対して不適切である、あるいは既に工具が摩耗限界に達している。
    • 切りくず処理の不良
      生成された切りくずがバイトやワークに絡みつき、その排除のために過大な負荷が瞬間的にかかる。
    • 切削油関連の要因として考えられること
      • 潤滑不足
        切削抵抗が過度に増大し、バイトの切れ刃に設計以上の応力が集中してしまう。
      • 冷却不足または不均一な冷却
        切れ刃が高温になり材料強度(特に靭性)が低下する、あるいは加工点への切削油供給が断続的になることで切れ刃が急冷と急加熱を繰り返し、熱衝撃による微小な亀裂(ヒートクラック)が発生し、そこを起点としてチッピングや折損に至る。
      • 不適切な油剤供給
        加工点、特に最も負荷のかかる切れ刃先端に切削油が十分に到達していない、あるいは供給が途切れている。
  • 切削油の観点からの具体的な対策・改善提案
    • 潤滑性能の向上策
      より高い潤滑性能を持つ切削油(例えば、油性切削油、あるいは油性向上剤や極圧添加剤を強化配合した高濃度のエマルション型水溶性切削油など)への変更を検討する。水溶性切削油を使用している場合は、メーカー推奨範囲内で濃度をやや高めに調整し、潤滑成分の供給量を増やす。
    • 冷却性能の確保と安定した連続供給
      熱衝撃によるダメージを避けるため、十分な量の切削油を、切れ刃全体に、かつ加工中は途切れることなく連続的に供給する。冷却性を重視する場合は、ソリュブル型やシンセティック型水溶性切削油の適用も有効です。
    • 切りくず処理性能の改善
      洗浄性に優れた切削油を選定し、適切な流量と圧力で供給することで、切りくずの絡みつきによる突発的な負荷を防ぐ。(詳細は後述のトラブル4を参照)

トラブル2:構成刃先(BUE:Built-Up Edge)が頻繁に発生し、加工面の品質や寸法精度が悪化する

  • 考えられる主な原因
    • 潤滑不足
      特に中低速域での切削において、バイトのすくい面と生成される切りくずとの間の摩擦が大きく、被削材の一部が熱と圧力によって刃先に強く溶着・堆積してしまう。
    • 被削材の凝着性
      軟鋼、低炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、純アルミニウムや一部のアルミニウム合金など、延性が高く、工具材料との間で凝着(くっつき)を起こしやすい性質を持つ材料。
    • 工具のすくい角
      すくい角が小さい(ネガティブに近い)工具は、切りくずとの接触長が長くなり、摩擦熱も発生しやすいため、構成刃先がより生成・成長しやすい傾向がある。
    • 切削油関連の要因として考えられること
      使用している切削油の潤滑性や極圧性が、現在の切削条件や被削材の特性に対して不足している。
  • 切削油の観点からの具体的な対策・改善提案
    • 潤滑性・極圧性の高い切削油の選定
      油性向上剤や、硫黄・リン・塩素系(現在は使用が限定的)などの極圧添加剤が効果的に配合された切削油を使用する。これらの添加剤は、切れ刃と切りくずの間に強固な潤滑膜や化学的な反応膜を形成し、金属同士の直接的な溶着を効果的に防ぎます。
    • 水溶性切削油の場合は濃度を高めに調整し、潤滑成分の供給量を増やして潤滑効果を高める。
    • 切削速度の戦略的な調整: 一般的に、構成刃先は特定の中低速域(例えば、炭素鋼で20~60m/min程度)で最も発生・成長しやすいとされています。したがって、現在の切削速度がこの領域にある場合は、その速度域を避けて、より低速側(例えば10m/min以下)にするか、あるいは逆に思い切って高速側(例えば100m/min以上、工具材種が許容すれば)に設定することで、構成刃先の生成を効果的に抑制できる場合があります。

トラブル3:びびり振動(チャター振動)が発生し、加工面に特徴的な模様(びびりマーク、チャターマーク)が現れたり、異音が発生したりする

  • 考えられる主な原因
    • 加工システム全体の剛性不足
      工作機械本体(主軸、ベッド、刃物台など)の剛性が低い、使用している工具(バイト、ホルダー、タレットなど)の突き出し長さが過大でたわみやすい、加工対象物であるワークピースのクランプ(把握)が不十分で振動しやすい、あるいはワークの形状が細長いなど、加工システム全体の剛性が不足していると、切削抵抗の変動などをきっかけとして自励振動(びびり振動)が発生しやすくなります。
    • 不適切な切削条件
      設定している切削速度、送り速度、切り込み深さの組み合わせが、加工システムの固有振動数を不必要に刺激するような「びびりやすい条件」になっている。
    • 工具の刃先形状や摩耗状態
      バイトの切れ刃の逃げ角が大きすぎる(切れ刃が鋭利すぎる)、あるいは摩耗が進行して切れ味が鈍っていると、切削抵抗が不安定になり、びびりが発生しやすくなります。
    • 切削油関連の要因として考えられること
      使用している切削油の潤滑性が不足しているため摩擦変動が大きい、あるいは切削油の油膜が持つ減衰性(振動を吸収・抑制する性質)が低い、供給が不均一で加工点での摩擦状態が不安定になっている。
  • 切削油の観点からの具体的な対策・改善提案
    • 潤滑性および湿潤性(金属表面への濡れやすさ)の高い切削油の選定
      加工点での摩擦変動をできる限り抑え、バイトの切れ刃とワークピースの間に常に安定した潤滑油膜を形成できるような油剤を選びます。油性向上剤を多く含むものや、ある程度の粘度を持ち油膜厚さを確保しやすい油剤が効果的な場合があります。
    • 切削油の粘度の調整(やや高めに)
      一般的に、切削油の粘度をやや高めにすることで、形成される油膜の厚みが増し、油膜の持つダンピング効果(振動を減衰させる効果)を高めることが期待できます。ただし、粘度を上げすぎると冷却性や浸透性が低下したり、泡立ちやすくなったりする可能性もあるため、全体のバランスを考慮しながら慎重に調整する必要があります。
    • 均一かつ十分な量の安定供給
      加工点全体を常に安定して潤滑・冷却することで、摩擦状態の急激な変化を防ぎ、びびりの発生を抑制します。

トラブル4:切りくずが工具やワークに絡みついたり、スムーズに排出されなかったりする

  • 考えられる主な原因
    • 被削材の延性が高い
      オーステナイト系ステンレス鋼や一部のアルミニウム合金、純銅など、切りくずが長く連続してカールしやすい性質を持つ材料。
    • 工具のチップブレーカーが効果的に機能していない、あるいはチップブレーカーのない工具を使用している。
    • 切削油関連の要因として考えられること
      使用している切削油の洗浄力(切りくずを洗い流す能力)が不足している、油剤の粘度が高すぎて切りくずが油剤にまとわりついて流れにくい、加工点への供給量が少ない、あるいはクーラントノズルの位置や向きが不適切で切りくずの自然な排出を妨げている。
  • 切削油の観点からの具体的な対策・改善提案
    • 洗浄性・流動性に優れた切削油の選定
      低粘度のソリュブル型やシンセティック型水溶性切削油など、切りくずを効果的に、かつ速やかに洗い流す能力の高いタイプを選びます。
    • 供給流量と供給圧力の増加
      切りくずを物理的に押し流すクーラントの運動エネルギーを高めます。
    • クーラントノズルの向きや位置の最適化
      切りくずが生成される方向から、機械の切りくず排出口やチップコンベアへ向かう自然な流れを助けるように、ノズルを戦略的に配置・調整します。
    • 高圧クーラントシステムの導入検討
      特に深穴加工や、切りくずが詰まりやすい内径溝加工、あるいは自動盤での連続加工などで、切りくず処理の劇的な改善が期待できます。

トラブル5:加工面の焼けや変色が発生する

  • 考えられる主な原因
    • 冷却不足
      加工点での異常な温度上昇により、ワークピースの表面が酸化したり、焼付きに近い状態になったりする。
    • 工具摩耗の著しい進行
      切れ味が極端に鈍った工具を使用し続けると、切削ではなく擦りむしるような状態になり、切削抵抗が異常に増大し、それに伴い発熱量も急増する。
    • 切削油関連の要因として考えられること
      冷却性能の低い切削油を使用している(例:高粘度の油性切削油で高速加工を行っている)、加工点への供給量が絶対的に不足している、油剤が劣化して本来の冷却性能が低下している、あるいは使用している切削油に含まれる特定の添加剤が、加工熱や被削材との接触によって化学反応を起こし、表面を変色させている。
    • 切削油の観点からの具体的な対策・改善提案
      • 冷却性能の高い切削油の選定
        水を主成分とし、比熱および熱伝導率に優れるソリュブル型やシンセティック型水溶性切削油が、一般的に油性切削油よりも高い冷却性能を発揮します。
      • 十分な量を加工点に確実に、かつ途切れることなく供給する。
      • 切削油の日常管理(濃度管理、異物除去など)と定期的な交換を徹底し、油剤の性能を常に良好な状態に維持する。
      • クーラントチラーを導入し、切削油の温度を低温で安定させることで、冷却ポテンシャルを高める。
      • 被削材との化学的な適合性を事前に確認し、特に非鉄金属(銅合金、アルミニウム合金など)や特殊な合金を加工する際には、変色の原因となるような活性の高い添加剤(例えば、特定の硫黄系極圧剤など)を含まない切削油を選定する。

これらのトラブルは、多くの場合、単一の原因によって引き起こされるのではなく、機械、工具、ワーク、切削条件、そして切削油といった複数の要因が複雑に絡み合って発生します。したがって、表面的な現象だけにとらわれず、多角的な視点から原因を深く掘り下げ、根本的な解決策を見つけ出すことが重要です。 サンワケミカル株式会社では、お客様が直面している旋盤加工における様々なトラブルに対し、切削油の専門家としての長年の知見と分析技術を駆使して、その原因究明のお手伝いや、具体的な改善策、そして最適な特殊切削油剤のご提案を行っております。解決の糸口が見えない問題がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。


まとめ

本記事では、旋盤加工における切削油の基本的な役割の再確認から始まり、使用するバイトの種類(ハイス、超硬、サーメット、セラミック、CBN、PCDなど)や加工の目的(荒加工、仕上げ加工)に応じた最適な切削油の選び方、さらには様々な加工方法(外径旋削、内径旋削、ねじ切り、突っ切り、高速切削など)に合わせた効果的な供給方法のテクニック、そして最終的な仕上げ面粗度を格段に向上させるための応用的な活用術に至るまで、幅広く、かつ深く掘り下げて解説してまいりました。また、旋盤加工の現場で頻繁に遭遇する可能性のある代表的なトラブル(バイトのチッピングや折損、構成刃先の発生、びびり振動、切りくず処理不良、加工面の焼けや変色など)と、その解決に向けた切削油の観点からの具体的な対策についても、実践的なヒントを交えてご提案させていただきました。

旋盤加工という金属加工の根幹をなす技術において、切削油は、単に「刃物を冷やすための液体」あるいは「滑りを良くするための油」というだけの単純な存在ではありません。それは、

  • 発生する莫大な切削熱を的確にコントロールし、精密なワークピースと高価な工具を熱的なダメージから保護する「高度な冷却機能」
  • 切れ刃とワークピース、そして切りくずとの間の激しい摩擦を極限まで低減し、スムーズで安定した切削と、欠陥のない美しい加工面を実現する「精密な潤滑機能」
  • 連続的に、あるいは複雑な形状で生成される切りくずを、加工領域から迅速かつ効率的に排出し、再切削や絡みつきによるトラブルを防ぎ、加工の安定性を高める「効果的な切りくず処理機能」
  • 切削によって新たに生まれ、極めて活性な状態にある加工済み表面や、高価な工作機械の重要部品を、錆や腐食といった劣化から守る「信頼性の高い防錆機能」

といった、加工プロセス全体を最適化し、そのパフォーマンスを最大限に引き出すための、多岐にわたる極めて重要な役割を担う、まさに「機能化学部品」と言えるのです。 この切削油を、それぞれの加工の特性や目指す品質に応じて適切に選定し、その潜在的な性能を最大限に引き出すための供給方法や日々のきめ細やかな管理を実践することで、旋盤加工の効率は格段に向上し、生み出される製品の品質も飛躍的に高めることが可能となります。

もし、現在ご使用になっている切削油の性能にご満足いただけていない点がある、あるいは、特定の被削材(例えば、ステンレス鋼、チタン合金、インコネルといった難削材)の加工における課題、さらなる高精度化・高面品位化への挑戦、工具寿命の大幅な改善といった、旋盤加工に関する具体的な技術的課題や目標をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちサンワケミカル株式会社の専門スタッフにご相談ください。私たちは、長年にわたる切削油剤の研究開発と、多くのお客様の多様な加工現場で培われた豊富な製品知識、そして最新の加工技術や工具材料の動向に関する深い理解に基づき、お客様一人ひとりが直面している状況や個々のニーズに完全に合致した最適な切削油製品と、その効果を最大限に引き出すための具体的な活用方法、さらには周辺技術に関する情報提供まで含めた、トータルなソリューションをご提案させていただきます。

皆様の旋盤加工が、より効率的で、より高品質なものとなり、そして何よりも安全で快適な作業環境の下で行われるよう、サンワケミカル株式会社は、切削油という製品を通じて、これからも全力でサポートしてまいります。


サンワケミカル株式会社は、長年の経験と技術に基づき、多種多様な切削油剤を開発・製造しております。お客様の加工条件やニーズに合わせた最適な製品をご提案いたしますので、切削油に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

もし、この記事で紹介した対策を試しても問題が解決しない場合や、お使いの切削油に関するより詳細な情報、お客様の特定の加工に最適な油剤の選定についてご相談がありましたら、どうぞお気軽に私たちサンワケミカル株式会社までお問い合わせください。経験豊富な専門スタッフが、お客様の状況を詳しくお伺いし、最適なソリューションをご提案いたします。

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今後も、金属加工の現場で役立つ情報を発信してまいりますので、サンワケミカル株式会社公式ブログにご期待ください。

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サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
副社長
金属加工油剤の営業一筋21年。常に「お客様の立場」を第一に考え、課題解決に誠実に取り組むことで、多くの企業様と長い信頼関係を築いてまいりました。「信頼の輪が大きな幸せを生む」という経営理念のもと、今後もお取引先様の発展と働く方々のお役に立てるよう努めてまいります。 趣味はサッカー。プレミアリーグを現地で観戦したい。
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