ステンレス加工, 切削油, 油剤選定, SUS304, 難削材, 加工硬化, 工具摩耗, 溶着 【ステンレス加工の切削油選定】トラブル対策と実践テクニック

【ステンレス加工の切削油選定】トラブル対策と実践テクニック

【ステンレス加工の切削油選定】トラブル対策と実践テクニック
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【ステンレス加工の切削油選定】トラブル対策と実践テクニック

「工具の摩耗が異常に早い」「加工面がむしれてキレイに仕上がらない」「切りくずが刃先に溶着してしまう」…。機械加工の現場で、ステンレス鋼の加工に携わる方なら、一度はこのような深刻なトラブルに頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。優れた耐食性と強度から幅広い分野で使用されるステンレス鋼ですが、その一方で、金属加工の世界では代表的な「難削材(なんさくざい)」として知られています。

この加工の難しさを克服し、トラブルを未然に防いで、効率的かつ高品質な加工を実現するための最も重要な鍵、それこそが「切削油の戦略的な選定と活用」にあります。ステンレス加工の成功は、その特有の性質を深く理解し、それに対応できる高性能な切削油を、最適な方法で供給することにかかっていると言っても過言ではありません。

この記事では、ステンレス加工という難題を解決するための「切削油」に徹底的に焦点を当てます。ステンレス鋼の種類と切削特性の基本から、その加工を成功に導くための最適な切削油の選び方、効果を最大化する供給方法、そして頻発するトラブルへの具体的な対策まで、現場ですぐに役立つ実践的なテクニックを網羅的に解説いたします。

1. ステンレス鋼の種類と切削加工の特性(加工硬化、熱伝導性)

ステンレス鋼の種類と切削加工の特性(加工硬化、熱伝導性)
ステンレス鋼の種類と切削加工の特性(加工硬化、熱伝導性)

ステンレス加工に適した切削油を選ぶには、まずその材質が持つ「加工硬化」「低熱伝導性」「高い凝着性」という三大特性を理解することが不可欠です。これらの厳しい特性が、切削油に極めて高いレベルの潤滑性能と冷却性能を同時に要求する原因となります。

ステンレス鋼(Stainless Steel)は、主成分である鉄(Fe)にクロム(Cr)を10.5%以上含ませることで、表面に強固な不動態皮膜を形成し、優れた耐食性(錆びにくさ)を実現した合金鋼です。含有される他の元素(ニッケル、モリブデンなど)の割合や結晶構造によって、いくつかの種類に分類され、それぞれが異なる切削加工特性を持っています。

代表的なステンレス鋼の種類とそれぞれの切削加工における特性

オーステナイト系ステンレス鋼(例:SUS304, SUS316, SUS310S)
特徴

クロム(Cr)とニッケル(Ni)を主成分とし、非磁性で、延性・靭性に富み、耐食性に最も優れています。ステンレス鋼の中で最も広く使用されているタイプです。

切削加工における特性
  • 加工硬化が極めて著しい
    一度加工された部分が、塑性変形によって元の状態よりも著しく硬化する性質が非常に強いです。この硬化した層を次に切削する際に、工具に極めて大きな負荷がかかり、摩耗が急激に進行します。
  • 熱伝導率が非常に低い
    普通鋼の約1/3程度しかなく、切削加工で発生した熱がワークや切りくずへ逃げにくい性質があります。これにより、熱が工具の切れ刃に集中・蓄積し、刃先が高温になりやすいです。
  • 高い凝着性(溶着しやすい)
    靭性が高く粘り強いため、切りくずが工具の刃先に溶着し、構成刃先を生成しやすいです。
フェライト系ステンレス鋼(例:SUS430)
特徴

クロム(Cr)を主成分とし、ニッケル(Ni)を含まないか、含有量が少ないタイプです。磁性があり、オーステナイト系に比べて安価ですが、耐食性や延性はやや劣ります。

切削加工における特性

オーステナイト系ほどではありませんが、加工硬化性があり、工具摩耗が進みやすい傾向があります。切りくずは脆く、処理しやすい場合もあります。

マルテンサイト系ステンレス鋼(例:SUS410, SUS420J2, SUS440C)
特徴

クロム(Cr)を主成分とし、炭素(C)の含有量が多いタイプです。熱処理(焼入れ・焼き戻し)によって高い硬度と強度を得られるのが最大の特徴です。刃物やシャフトなどに使用されます。

切削加工における特性

熱処理後の硬度が高いため、切削抵抗が非常に大きくなります。工具には高い耐摩耗性が求められます。切りくずは分断されやすいですが、工具刃先のチッピング(微小欠損)が起こりやすいです。

これらの特性が切削油の選定に与える影響

ステンレス加工、特に最も一般的なオーステナイト系の加工では、前述の「加工硬化」「低熱伝導性」「高い凝着性」という三重苦が、工具寿命の低下や加工品質の悪化を招く最大の原因となります。

  • 「加工硬化」と「高い凝着性」への対策
    これらに対しては、工具刃先を強力に保護し、摩擦と溶着を極限まで低減する、極めて高い潤滑性能極圧性能が切削油に求められます。
  • 「低熱伝導性」への対策
    工具刃先に集中・蓄積する熱を、強制的に、かつ迅速に除去するための、極めて高い冷却性能が切削油に求められます。

このように、ステンレス加工では、一般的に相反する関係にある「高い潤滑性」と「高い冷却性」を、同時に高いレベルで両立させることが、切削油選定における最大のテーマとなるのです。

2. ステンレス加工に最適な切削油の選び方(高潤滑、高冷却)

ステンレス加工に最適な切削油の選び方(高潤滑、高冷却)
ステンレス加工に最適な切削油の選び方(高潤滑、高冷却)

ステンレス加工に最適な切削油は、「加工硬化」と「凝着」を抑制する極めて高い潤滑性と、「低熱伝導性」に起因する工具先端の蓄熱を解消する強力な冷却性という、相反する性能をいかに両立させるかが鍵となります。加工条件に応じて、潤滑性を最大化する油性切削油か、冷却性を確保しつつ潤滑性を高めた特殊な水溶性切削油かを戦略的に選択します。

ステンレス加工特有の課題を克服するためには、切削油の性能、特に「潤滑性」と「冷却性」を最大限に高める必要があります。

加工硬化を抑制し、工具摩耗を防ぐための「高い潤滑性能」の重要性

なぜ高い潤滑性が必要か

ステンレス加工では、切削抵抗を低減し、摩擦熱の発生そのものを抑えることが、加工硬化の進行を抑制し、工具摩耗を防ぐための最も基本的なアプローチです。また、高い潤滑性は、ステンレスの粘り強さに起因する工具への溶着(凝着)を防ぐ上でも不可欠です。

高い潤滑性を実現する方法
  • 油性切削油の活用
    一般的に、潤滑性能を最も高く発揮できるのは油性切削油です。特に、低速での重切削や、タップ加工、ブローチ加工など、切削抵抗が極めて大きくなる加工では、油性切削油が持つ強力な潤滑膜が工具を保護し、安定した加工を実現します。
  • 極圧(EP)添加剤の積極的な配合
    ステンレス加工においては、極圧添加剤の配合がほぼ必須となります。硫黄系やリン系などの極圧添加剤は、高温・高圧下で工具表面と化学反応し、金属同士の溶着を防ぐ強固な反応膜(極圧膜)を形成します。特に、近年の環境規制に対応した「塩素フリー」でありながら、高い極圧性能を発揮する特殊な添加剤が配合された切削油が主流となっています。
  • 油性向上剤の活用
    脂肪酸やエステルなどの油性向上剤は、金属表面への吸着性が高く、摩擦係数を低減させることで、仕上げ面品位の向上や構成刃先の抑制に貢献します。

低い熱伝導率に対応するための「高い冷却性能」の重要性

なぜ高い冷却性が必要か

ステンレスは熱伝導率が低いため、加工で発生した熱がワーク内部や切りくずに拡散しにくく、その多くが工具の切れ刃先端に集中・蓄積します。これにより、刃先温度が異常に上昇し、工具の軟化、酸化摩耗、熱亀裂などを引き起こします。

高い冷却性を実現する方法
  • 水溶性切削油の活用
    水の持つ高い比熱と熱伝導性を活かせる水溶性切削油は、油性切削油に比べて本質的に高い冷却能力を持っています。特に、高速加工や、切り込み量が大きく発熱が著しい加工では、水溶性切削油が持つ高い冷却性能が、工具寿命の延長と加工精度の安定化に大きく貢献します。
  • タイプの選定
    水溶性の中でも、潤滑性を高めたエマルジョン型や、潤滑性と冷却性を高いレベルで両立させた特殊なソリュブル型、あるいは潤滑型シンセティック型がステンレス加工に適しています。
  • 濃度の管理
    水溶性切削油を使用する場合、潤滑性と防錆性を確保するために、メーカー推奨範囲内でもやや高めの濃度(例:8~15%程度)で管理することが一般的です。

まとめると、ステンレス加工用の切削油選定は、まず加工条件(切削速度、負荷など)を考慮し、「潤滑」と「冷却」のどちらをより優先すべきかを見極めることが重要です。その上で、潤滑性重視なら高性能な油性切削油を、冷却性も確保したいなら潤滑性能を大幅に強化した特殊な水溶性切削油を選ぶ、という戦略的な判断が求められます。サンワケミカルでは、これら両方の要求に応える、ステンレス加工に最適化された高性能な油剤を幅広くラインナップしております。

3. 切削速度、送り速度に合わせた切削油の供給方法

切削速度、送り速度に合わせた切削油の供給方法
切削速度、送り速度に合わせた切削油の供給方法

ステンレス加工で切削油の効果を最大限に引き出す供給方法の鍵は、加工条件に合わせて供給の目的を最適化することです。低速・高送り加工では潤滑膜を確実に形成すること、高速加工では強力な冷却を行うことが最優先されます。これを実現するため、高圧クーラント工具内部給油(スルークーラント)といった先進的な供給技術の活用が極めて有効です。

高性能な切削油を選定しても、それが最も重要な加工点、すなわち工具の切れ刃に確実に届かなければ、その効果は半減してしまいます。特に、粘り強い切りくずが生成され、熱がこもりやすいステンレス加工では、切削油の供給方法が加工の成否を大きく左右します。

低速・高送り加工時:潤滑性確保のための供給

加工の特徴と課題

リーマ加工、タップ加工、あるいは低速での重切削といった加工では、切削速度が遅いため、潤滑油膜が形成されにくい一方で、送り量が大きいために切れ刃には大きな負荷がかかります。この条件下では、潤滑不足による工具の摩耗、溶着、むしれといったトラブルが発生しやすくなります。

供給のポイント
  • 十分な油量の供給
    切れ刃とワークの間に常に潤滑膜が存在するように、十分な量の切削油を途切れることなく供給します。
  • 加工点への確実な到達
    粘り強い切りくずに邪魔されることなく、油剤が確実に切れ刃に到達するように、ノズルの位置や角度を精密に調整します。特に、タップ加工の止まり穴などでは、内部給油(オイルホール付き)タップの活用が、潤滑不足を防ぎ、タップ折損を回避する上で絶大な効果を発揮します。

高速加工時:冷却性確保のための供給

加工の特徴と課題

高速でステンレスを加工する場合、単位時間あたりの発熱量が飛躍的に増大し、工具先端の温度が異常に上昇します。この熱をいかに効率よく除去するかが、工具寿命と加工精度を維持する鍵となります。

供給のポイント
  • 高圧クーラントシステムの活用
    通常の圧力では、高速で回転する工具の遠心力やエアバリアによって切削油が弾き飛ばされてしまいます。高圧クーラントシステム(1MPa以上)を用いることで、このバリアを突き破り、加工点に強制的に切削油を叩きつけることができます。これにより、冷却効果が劇的に向上します。
  • 大流量供給
    大量の切削油を供給することで、熱を強制的に奪い去ります(フラッシング効果)。
  • 工具内部給油(スルークーラント)の活用
    高圧クーラントと内部給油を組み合わせることは、高速加工における熱問題の最も効果的な解決策です。工具の先端から直接、高圧で切削油を噴射することで、最も熱が集中する切れ刃をピンポイントで、かつ効率的に冷却できます。

ノズル位置や吐出方向の工夫

外部から供給する場合、ノズルの位置と方向は極めて重要です。

  • 切りくずの流れを考慮する
    切りくずがスムーズに排出されるのを助け、かつ切りくずに邪魔されずに刃先に届く位置と角度を見つけ出します。
  • 複数のノズルからの供給
    工具のすくい面側と逃げ面側の両方から供給するなど、複数のノズルを戦略的に配置することで、冷却と潤滑の効果を高めることができます。

ステンレス加工では、加工条件に応じて「潤滑」と「冷却」のどちらを優先すべきかを判断し、それに合わせて供給量、圧力、そして供給方法(外部給油、内部給油)を最適化するという、戦略的なアプローチが求められます。

4. ステンレス加工で起こりやすいトラブルと切削油による対策(溶着、バリ、工具摩耗)

ステンレス加工で起こりやすいトラブルと切削油による対策(溶着、バリ、工具摩耗)
ステンレス加工で起こりやすいトラブルと切削油による対策(溶着、バリ、工具摩耗)

ステンレス加工で頻発する「工具への溶着」「大きなバリ」「異常に早い工具摩耗」という三大トラブルは、その根本原因の多くが材質特有の性質(凝着性、加工硬化、低熱伝導性)にあります。これらの問題解決の鍵は、高性能な油性剤や極圧添加剤を含む切削油で強力な潤滑膜を形成し、効果的な冷却で刃先温度を制御することに集約されます。

ステンレス加工の現場では、日々様々なトラブルとの戦いが繰り広げられています。ここでは、代表的なトラブルと、その解決に繋がる切削油の活用法を具体的に解説します。

工具への溶着(凝着)を防ぐ

現象と原因

ステンレス鋼は、工具材料(特に超硬合金)との親和性が高く、加工中の高温・高圧下で、切りくずが工具のすくい面に強くくっついてしまう「溶着(凝着)」が発生しやすいです。これが成長すると構成刃先となり、加工面をむしったり、剥がれる際に工具刃先を傷つけたりします。

切削油による対策
  • 油性剤・極圧添加剤の活用
    脂肪酸やエステルなどの油性剤は、工具表面に物理吸着膜を形成し、ステンレスが直接接触するのを防ぎます。さらに、硫黄系やリン系の極圧添加剤は、高温・高圧下で化学反応膜(極圧膜)を形成し、溶着を強力に防止します。塩素フリーでありながら、これらの添加剤が効果的に配合された切削油の選定が不可欠です。
  • 切削速度の調整
    構成刃先が発生しやすい特定の中低速域を避けることも有効ですが、その場合も優れた潤滑性を持つ切削油が加工の安定性を支えます。

バリの発生を抑制する

現象と原因

ステンレスは延性・靭性が高いため、切削時に塑性変形しやすく、加工部のエッジに大きな「バリ」が発生しやすいです。工具の切れ味が低下(摩耗や溶着による)していると、切削ではなく金属を引きちぎるような状態になり、バリはさらに大きく、強固になります。

切削油による対策
  • 切れ味の良い工具と高潤滑性切削油の組み合わせ
    バリ抑制の基本は、常にシャープな切れ味を維持することです。切削油は、工具の摩耗や溶着を防ぐことで、この切れ味の維持に直接的に貢献します。高い潤滑性を持つ切削油を選び、切削抵抗を低減し、金属がスムーズにせん断されるように促します。
  • 効果的な供給方法の工夫
    加工のエッジ部分に確実に切削油が供給されるようにノズルを調整し、その部分での摩擦を低減します。

工具摩耗を抑制する

現象と原因

ステンレス加工における工具摩耗は、「加工硬化」「低熱伝導率」「高い凝着性」という三大特性が複合的に作用して、極めて早く進行します。

  • 加工硬化
    一度切削された面が硬化し、次の切れ刃がその硬い層を削るため、摩耗が加速します。
  • 低熱伝導率
    熱が刃先に集中し、高温による酸化摩耗や拡散摩耗、塑性変形を引き起こします。
  • 高い凝着性
    溶着と脱落の繰り返しが、刃先のチッピングや摩耗を促進します。
切削油による対策
  • 高潤滑な切削油による加工硬化の抑制
    優れた潤滑性で切削抵抗と摩擦熱を低減することが、加工変質層(加工硬化層)の生成を抑制する上で最も重要です。
  • 適切な冷却による刃先温度の管理
    冷却性の高い水溶性切削油を、高圧・大流量で供給し、刃先に集中する熱を強制的に除去します。クーラントチラーによる温度管理も極めて有効です。
  • 潤滑と冷却の両立
    これらの対策を両立させるため、潤滑性能を大幅に強化した特殊な水溶性切削油や、加工条件によっては低粘度の油性切削油を選定します。

ステンレス加工のトラブルシューティングは、材質の特性を理解し、それに合わせて切削油の「潤滑」と「冷却」のバランスを最適化することに尽きます。

5. SUS304、SUS316など種類別 おすすめ切削油

SUS304、SUS316など種類別 おすすめ切削油
SUS304、SUS316など種類別 おすすめ切削油

最も一般的なオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304やSUS316の加工には、その高い加工硬化性と凝着性に対応するため、強力な塩素フリーの極圧(EP)添加剤と高性能な油性向上剤をバランス良く配合した切削油が不可欠です。加工条件の厳しさに応じて、潤滑性を最大化する専用の油性切削油か、冷却性も確保できる高潤滑タイプの水溶性切削油(エマルジョン、特殊ソリュブル)を戦略的に選択します。

ここでは、代表的なステンレス鋼の種類ごとに、推奨される切削油のタイプや選定のポイントを、より具体的に示します。

SUS304(18Cr-8Ni):最も代表的なオーステナイト系ステンレス鋼

一般的な課題

加工硬化が著しく、工具への溶着が起こりやすい。切りくずは長く連続し、工具に絡みつきやすい。工具寿命の短縮と仕上げ面品位の悪化が常に問題となります。

推奨される切削油
1. 水溶性切削油(汎用~高能率加工向け)
  • 推奨タイプ
    潤滑性に優れたエマルジョン型、または潤滑性能を大幅に強化した特殊ソリュブル型
  • キーとなる添加剤
    塩素フリーの硫黄系・リン系極圧添加剤、合成エステルなどの油性向上剤、高分子系の摩擦調整剤。
  • 選定ポイント
    マシニングセンタやターニングセンタでの一般的な旋削・フライス加工では、冷却性とのバランスが良い水溶性が第一選択となります。濃度は高め(8~15%)で管理し、潤滑性能を確保します。高圧クーラントやスルークーラントと組み合わせることで、その性能を最大限に引き出せます。サンワケミカルでは、SUS304加工で多くの実績を持つ、塩素フリー高潤滑タイプの水溶性切削油を各種ご用意しております。
2. 油性切削油(重切削・精密仕上げ向け)
  • 推奨タイプ
    低~中粘度の、塩素フリー・不活性または中程度の活性を持つ油性切削油。
  • キーとなる添加剤
    硫黄系・リン系の極圧添加剤、動植物油脂や合成エステルなどの油性向上剤。
  • 選定ポイント
    タップ加工、リーマ加工、ブローチ加工、あるいは低速での重切削など、極めて高い潤滑性が求められる加工では、油性切削油が圧倒的に有利です。仕上げ面品位を最優先する場合にも適しています。ただし、発煙や火災リスク、作業環境への配慮が必要です。

SUS316(18Cr-12Ni-2.5Mo):SUS304より高耐食・高強度なオーステナイト系

一般的な課題

モリブデン(Mo)の添加により、SUS304よりもさらに強度が高く、粘り強い性質を持つため、加工硬化性もより顕著になります。切削抵抗がさらに大きくなり、工具への負荷はより過酷になります。

推奨される切削油

SUS304向けの選定ポイントを基本としますが、より一層高い潤滑性と極圧性が求められます。

  • 水溶性切削油
    極圧添加剤の配合量がより多い、高性能なエマルジョン型や特殊ソリュブル型を選定します。
  • 油性切削油
    より活性度の高い極圧添加剤を含む、難削材加工専用の油性切削油が効果を発揮します。

その他のステンレス鋼

  • SUS410, SUS420J2(マルテンサイト系) 熱処理後の高硬度状態での加工が主となるため、切削抵抗が非常に大きくなります。工具のチッピングを防ぎ、摩耗を抑制するため、極圧性に優れた油性切削油や、高潤滑・高極圧タイプのエマルジョン型水溶性切削油が適しています。
  • SUS430(フェライト系) オーステナイト系ほどの難削材ではありませんが、構成刃先や工具摩耗を防ぐため、油性向上剤やマイルドな極圧添加剤を配合した、バランス型のエマルジョン型やソリュブル型水溶性切削油が有効です。

SUS304やSUS316といった代表的な難削材の加工を成功させるには、その厳しい要求に応えられる高性能な切削油の選定が不可欠です。塩素フリーで、かつ強力な極圧添加剤と油性向上剤を最適に配合した油剤を選ぶことが、安定した高効率加工への最短ルートとなります。

まとめ

本記事では、多くの現場担当者様が頭を悩ませる「難削材」の代表格であるステンレス鋼の切削加工において、その特有の課題(加工硬化、低熱伝導性、高い凝着性)を克服し、トラブルを回避しながら効率的かつ高品質な加工を実現するための、切削油の選び方と実践的な活用テクニックについて、多角的な視点から詳しく解説してまいりました。

ステンレス加工を成功に導くための切削油活用のポイントは、

  • 材質特有の三重苦を深く理解し、それに対応できる性能(高潤滑、高冷却、高極圧)を持つ油剤を選ぶこと。
  • 加工条件(低速・高送りか、高速か)に応じて、潤滑と冷却のどちらを優先すべきかを戦略的に判断し、油剤タイプや供給方法を最適化すること。
  • 溶着、バリ、工具摩耗といった頻発するトラブルの根本原因が、潤滑不足と冷却不足にあることを認識し、高性能な添加剤を含む切削油で対策を講じること。
  • SUS304、SUS316といった代表的な材質には、塩素フリーで高潤滑・高極圧な専用性の高い油剤を選定すること。 に集約されます。

適切な切削油の選定と、その性能を最大限に引き出すための正しい活用は、ステンレス加工という難題を解決するための最も確実で効果的なアプローチです。それは、工具寿命の延長、加工品質の向上、そして生産性の飛躍的な向上に直結し、結果として大きなコスト削減にも繋がります。

もし、現在ご使用の切削油でのステンレス加工に限界を感じておられる、あるいは、より高度な加工品質や効率化を目指しておられるのであれば、ぜひ一度、私たちサンワケミカル株式会社にご相談ください。長年の経験と豊富な実績に基づき、お客様が直面している課題を解決するための最適な切削油のご提案と、その効果的な活用法に関するトータルなサポートを提供させていただきます。


サンワケミカル株式会社は、長年の経験と技術に基づき、多種多様な切削油剤を開発・製造しております。お客様の加工条件やニーズに合わせた最適な製品をご提案いたしますので、切削油に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

もし、この記事で紹介した対策を試しても問題が解決しない場合や、お使いの切削油に関するより詳細な情報、お客様の特定の加工に最適な油剤の選定についてご相談がありましたら、どうぞお気軽に私たちサンワケミカル株式会社までお問い合わせください。経験豊富な専門スタッフが、お客様の状況を詳しくお伺いし、最適なソリューションをご提案いたします。

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今後も、金属加工の現場で役立つ情報を発信してまいりますので、サンワケミカル株式会社公式ブログにご期待ください。

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サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
サンワケミカル株式会社 鳥居省吾
副社長
金属加工油剤の営業一筋21年。常に「お客様の立場」を第一に考え、課題解決に誠実に取り組むことで、多くの企業様と長い信頼関係を築いてまいりました。「信頼の輪が大きな幸せを生む」という経営理念のもと、今後もお取引先様の発展と働く方々のお役に立てるよう努めてまいります。 趣味はサッカー。プレミアリーグを現地で観戦したい。
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